ポップ文化を装う“新右派”の台頭

長谷川 良

オーストリア内務省は2日、「2015年版憲法保護報告書」を公表した。6章から構成された報告書(全80頁)では極右、極左過激主義、テロリズム、情報工作(スパイ)活動などの動向がまとめられているほか、今回はインターネットの憎悪犯罪、フォビア現象などに関する専門家からの報告書が含まれている。


▲2015年版「憲法保護報告書」

テロリズムの項目では、「イスラム過激主義とテロリズムは国際社会、そして欧州の民主主義社会にとって潜在的に最も危険な問題である点で変化はない」と指摘している。

報告書によれば、イスラム過激派は昨年末時点で259人で、シリア・イラク紛争に参戦後帰国した数は79人、出国が止められた数は41人、紛争で死去した数は43人だった。

昨年の極右過激主義による犯罪件数は1156件で前年(750件)比で54.1%と大幅に増加した。その内訳をみると、極右派的行動が523件(前年比45.2%増)、外国人排斥323件(27.9%増)、反ユダヤ主義41件(3.6%増)、そしてイスラム・フォビア31件(2.7%増)、その他238件となっている。告訴総件数は2014年の1201件から15年1691件と急増している。

報告書は新しい右派の台頭を指摘し、それを新右派(Neue Rechte)と呼び、その動向に強い警戒を発している。新右派はインターネットを通じてさまざまなイベントを開催し、一種の“ポップ文化”(pop culture)を装いながら、過激な思想を若者や活動家に伝えている。新右派は外国人排斥、難民嫌悪、反イスラムのキャンペーンを行っている。

新右派の特徴は、従来の言語の解釈を巧みに変質させて使用することだ。例えば、“民族”という概念を“文化”に置き換えて解釈するといった具合だ。「外人は出ていけ」というキャンペーンでも固有文化の危機、異文化の脅威などの表現を使ってアピールしている。

一方、同国の極左過激派は①マルクス・レーニン主義派、②トロツキズム派、③自治・無政府派に分かれている。各グループは国際的ネットワークを構築しているが、相互間の連携も弱く、組織力、動員力も衰退傾向にある。

極左過激主義的犯罪件数は前年比で大幅に減少した。犯罪件数は前年371件から186件に(49.9%減)、告訴総件数でも545件から312件(42.8%減)に急減している。

オーストリアでは昨年、北アフリカ・中東地域から約9万人の難民・移民が殺到、その受け入れ問題で国内で対立が激化している。難民の受入れに強く抵抗する極右派勢力が勢いを強める一方、極左派勢力はその存在感を示す政治テーマを失い、守勢を余儀なくされている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年5月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。