トランプが在日米軍基地を撤退できない理由

トランプ大統領候補は2016年5月4日、米CNNテレビのインタビューで、日本や韓国など同盟国は米軍の駐留経費を100%負担すべきだと主張しました。在日米軍の撤退の可能性も示唆しました。

トランプ候補は次期在韓米軍司令官(韓米連合司令官兼務)に指名されたブルックス氏が米上院の公聴会で「韓国は昨年、在韓米軍の人的費用の約50%を負担した」と発言したことにコメントを求められ、「なぜ100%負担ではだめなのか」と問い返し、韓国や日本、ドイツなど米軍が駐留する国に全費用を負担させるという趣旨の発言かと聞かれると、「当然だ。すべての費用を負担すべきだと」と言い切ったと伝えられています。

今、この発言で日本でも韓国でも大騒ぎになっています。しかし、私は、もし日本が1円も払わなくても、絶対にアメリカは日本や韓国から米軍を撤退できないと確信しています。従って、彼の発言を真に受けて、そんな騒ぐ必要はないのです。これはトランプ一流の米国民へのリップサービスです。

なぜそう言えるのかというと、アメリカは日本や韓国を護るために米軍を駐留させているのではなく、自国を防衛するために駐留しているからです。

アメリカを中心として世界地図を俯瞰してみましょう。

もしアメリカが「世界の警察の役割」を放棄して、自国防衛に専念したとしましょう。アメリカの特徴は

海に囲まれている、世界でも珍しい海洋国家

です。これに対して、例えば、

中国は南はインド・インドシナ半島、北はロシア、西は中央アジア、東は韓国と陸地で仮想敵国と繋がっています。

ロシアだって、西はヨーロッパ、南は中国・中東、東は海峡を挟んで日本と、仮想敵国と対峙しています。

ですので、本土を防衛するのにロシアや中国においては陸軍が一番大事なのですが、アメリカにおいては海軍が一番大事なのです

アメリカの仮想敵国は、太平洋と大西洋を挟んで大海原の向こう側にいます。このうち、大西洋ですが、ロシアや中東が大西洋を渡ってアメリカ東海岸に攻め込もうとすると、必ずその前にヨーロッパを越えなければいけません。この盾があるので、アメリカは安心です。

一方、太平洋はどうでしょうか。仮想敵国、ロシアや中国、北朝鮮とは遠く距離があるものの海を挟んで直接対峙しています。そこでアメリカは第三艦隊、第七艦隊という太平洋艦隊を展開して、防衛にあたっています。このうち第七艦隊の旗艦/司令部は日本の神奈川県横須賀市にある横須賀海軍施設を母港とする揚陸指揮艦「ブルー・リッジ」艦上にあり、海軍中将が座乗しています。横須賀海軍施設の他、長崎県佐世保市、沖縄県、韓国の釜山、浦項、鎮海、シンガポールなどに基地を展開しています。

第7艦隊は、航空母艦(原子力空母)「ロナルド・レーガン(2015年10月1日配備)」を戦闘部隊の主力艦とし、戦時には50〜60の艦船、350機の航空機を擁する規模です。人的勢力も6万の水兵と海兵を動員する能力をもっていて、平時の兵力は約2万います。

原子力空母 ロナルドレーガン

アメリカ本国の反対側に当たる地球の半分を活動範囲とし、アメリカ海軍の艦隊の中では、最大の規模と戦力を誇っています。太平洋だけでなく、インド洋も管轄し、中国の南進に対峙しています。

第七艦隊の目的が、日本や韓国を防衛することでないことは火を見るより明らかです。世界最大の艦隊を横須賀に駐留させているのは、直接対峙している、ロシア・中国・北朝鮮がアメリカ本土を攻撃するのを防ぐためです。

そのための兵站補給基地として横須賀を使っているに過ぎません。もともと江戸時代にペリーが浦賀に来航したのだって、捕鯨船の兵站基地がほしかったからです。その伝統が今も続いているのです。

もし、アメリカ軍が日本を防衛するために駐留しているなら、海軍や海兵隊でなくて陸軍を置くべきです。

さらに、もし本当に米軍基地が日本と韓国から撤退したら、仮想敵国特に中国が米国本土を攻撃できる可能性が格段に増します。

出典:Wikipedia

中国海軍は2つの「線」を設定しています。

第一列島線は、上の図の左の赤線です、すなわち、日本の九州を起点に、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島にいたるラインです。中国海軍および中国空軍は、有事の際もし太平洋から、米国のロサンゼルスにミサイルを打ち込もうとすれば、この第一列島線を突破する必要があります。逆に言えば、この第一列島線で中国の艦船や潜水艦を封じ込めれば、米国本土の防衛力は格段に上がるわけです。その要衝に沖縄米軍基地は位置しています。本州の基地も重要です。むかし中曽根総理は日本列島を浮沈空母といって物議をかもしましたが、米国防衛からみて蓋しその通りであります。

ちなみに、もうひとつの要衝フィリピンでは、親米派アキノ大統領の任期満了に伴う大統領選挙の投票が行われました。主な候補者は、この記事が掲載される頃、結果は判明していると思われますが、恐らく、ロドリゴ・ドゥテルテ氏が勝つでしょう。彼はフィリピンのトランプと言われていて、米国中国を「両天秤にかけて」交渉で実利を得ると宣言しています。

米国にとってフィリピン基地の地理的重要性を踏まえての発言です。フィリピンが交渉カードを切り出すことは、日本のレートを上げるので、日本が米国に交渉するのに有利に働きます。例えば、トランプに、「日本もフィリピンも、もう第一列島線防護は興味ない。基地を置き続けたいなら、使用料金10倍ね」と言い返すことができます。

第二列島線は、伊豆諸島を起点に、小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニューギニアに至るラインです。近年に至るまで、中華人民共和国の海洋調査は、第一列島線付近までに留まっていたが、このところは第二列島線付近でも調査を行っています。海洋調査は他国の排他的経済水域内では行えないため、第二列島線付近にある沖ノ鳥島問題が持ち上がっています。最近台湾の総統が沖ノ島にいちゃもん付けているのはこうした背景です。

アメリカが中国が太平洋に自由に出てきて、グアムやハワイ、さらには米国本土を攻撃射程に収めることを許容できるわけもなく、またグアムとハワイの基地の「点」だけでこれを防御できるわけもなく、日本・韓国・台湾・フィリピン・インドネシア・ベトナム・シンガポールの防衛線を維持することが必須であるのです。

しかも日本はこの第一列島線、第二列島線の端に属しています。これはオセロの四隅のようなもので、角をとると圧倒的に優位になります。アメリカはみすみすオセロの隅の美味しいポジションを放棄できないはずです。残念ながら、韓国や台湾は隅ではないので、重要性は下がります。

そこで、浮沈空母日本はアメリカに対して、ものすごい取引カードをもっています。津軽海峡です。日本がアメリカに面従背反して、プーチンに「アメリカには内緒にしてやるから、ウラジオストクからうちの海峡通って、太平洋出ていいよ」とささやいたらアメリカの本土攻撃のリスクは格段に高まります。米軍が青森県三沢から撤退できるわけもない。あれだけ世界から指弾されても強引に占有したクリミアは、ロシア悲願の大海原に脱出するルートを確保するためです。

トランプもさすがにこの程度の常識は、重々承知しているはず、彼は解っていて、何も知らない自国民へのアジテートとしてこうした言動を繰り返しているに過ぎません。大統領に就任したら、確実に変節します。ですので、賢明なる日本国民はいちいちこうした言動に惑わされてはなりません。

Nick Sakai  ブログ ツイッター