【映画評】ヘイル、シーザー!

渡 まち子
1950年代のハリウッド。大手映画会社では命運を賭けた超大作映画「ヘイル、シーザー!」が撮影されていたが、主役である世界的大スターのウィットロックが何者かに誘拐されてしまう。撮影スタジオが大混乱に陥る中、事件解決を任されたのは、スタジオの何でも屋であるエディだった。セクシーな若手女優、演技がヘタなアクション俳優、人気もののミュージカルスターらを巻き込んで、謎の犯人から要求された身代金を準備し難事件に挑んでいく…。

黄金期のハリウッドを舞台にしたサスペンス・コメディー「ヘイル、シーザー!」は、ハリウッドが夢の工場と呼ばれ、クラシックな衣装に身を包んだ銀幕のスターたちが活躍した古き良き時代が背景だ。しかし1950年代は、映画の栄光が陰り始めた時でもある。そんな、映画界の最後のきらめきを偏愛するコーエン兄弟らしく、本作には映画へのオマージュが満載だ。大スターの誘拐事件解決に奔走する、何でも屋のエディは、スタジオを支える存在で、彼の仕事は多岐にわたる。聖書に基づく映画製作では宗教関係者を言いくるめ、お色気たっぷりの若手女優が妊娠すればその後始末をし、ゴシップ記者を煙に巻きながら、演技がドへたな俳優に激怒する監督をなだめる。まさにワーカホリックな日々が笑いを誘う。それでも、うんざりしながらも、映画と仕事を愛している様がなんとも愛おしいのだ。苦虫をかみつぶしたような顔でテキパキと雑事をこなしながら、頻繁に教会で懺悔するエディを演じる、ジョシュ・ブローリンが実に味がある。

豪華キャストは誰もがハマっているが、演技がヘタでまともな発音もできないカウボーイ俳優を演じたアルデン・エーレンライクは意外な掘り出し物で嬉しい驚きだった。共産主義の脅威におびえていたこの時代は、スタジオシステム崩壊のはじまりの時でもある。脚本・脚色にこだわるコーエン兄弟らしく、脚本家の苦労に目配せした設定もいいではないか!ちなみに、往年のハリウッドの、映画会社やスターたちのアブノーマルな日々の真実を知りたければ、ケネス・アンガーの名著「ハリウッド・バビロン」を読むことをおすすめする。

【70点】
(原題「HAIL,CAESAR!」)
(アメリカ/ ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン監督/ジョシュ・ブローリン、ジョージ・クルーニー、スカーレット・ヨハンソン、他)

(映画愛度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年5月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。