お金は最強のコミュニケーションツールだった

著者であれば誰もが憧れるのが「夢の印税生活」である。想像してもらいたい。嫌な仕事は一切請けずに講演で全国を飛びまわる。その講演も2年先まで埋まっている。書籍即売会ではフアンが行列をなしている。刊行本は数十冊を数え、毎月気がついたら印税がチャリンチャリン銀行口座に振り込まれている。

田口智隆(以下、田口)はベストセラー作家である。前述のような生活を送っているかは不明である。しかし1冊目の処女作『28歳貯金ゼロから考えるお金のこと』(KADOKAWA)がベストセラーになり、その後も累計50万部以上の実績を重ねている。出版業界では多くの著者、編集者、出版社が常に注目している1人でもある。

その田口がまた本を上梓した。『お金持ちの雑談』(総合法令出版)である。少々インパクトの強いタイトルで田口らしいと思ったが、内容は一般のビジネスパーソンにも役立つエッセンスが鏤められている。今回はその一部を紹介してみたい。

●ご縁の重要性を理解すること

田口は痩せ型である。決してデブではない。その田口は「賢いお金持ちには『デブ』はいない」と断言している。実はこの言葉は田口自身の経験に裏打ちされている。今から約10年前にある著者(田口自身)の体重は90キロを超えていた。実生活は不摂生にまみれていて多額の借金も抱えていたそうである。

その不摂生を、徹底した「自己管理」によって改善し、同時にお金の勉強を始めた著者は、たった2年で借金を完済する。さらに数年後、お金に困らない「お金のストレスフリー状態」にまで到達したとき田口の体重は60キロにまで減っていた。そして、田口が見つけたものは、「お金持ちしかやらない法則」だった。その一つが「雑談の技術」である。

また、雑談は、効果的に活用することで人間関係の潤滑油としての役割を果たすコミュニケーションツールであるとも断言している。一見、雑談とお金の間には相関関係が見えないように感じるだろう。しかし「お金持ちは意識的に雑談をしている」と主張する。

多くの人は、人とのご縁の重要性は認識しているだろう。そして最も基本的な原則が、お金は人とのご縁から生まれるという考え方である。お金は必ず「人」(相手)からもたらされるものだということ。出会った人とのご縁を深化させてビジネスにつなげていけるかどうかが分岐点になるとしている。

●ご縁は雑談で深まっていく

田口は、最初の雑談で印象の9割が決まると述べている。田口が仕事を請ける際の判断基準は「相手と楽しく話ができたか」という自分なりの尺度を重視しているそうだ。楽しく話せない相手でなければ楽しい仕事はできないだろう。「見た目が9割」「交渉力を高めるファッション」にも何らかの意味があるのだろう。しかし、見た目だけでは、その後のビジネスが発展することが無いことを経験から学習しているのである。

また田口は「自然体であること」を推奨している。私は経営コンサルタントでもあるが、これはコンサルタントをしている人にも良く当てはまる。部下をもたないコンサルタント(ジュニア、アソシエイト)の多くは話しかけにくいオーラをまとっている。簡単なことを難しく説明するのがこのポジションのコンサルタントの特徴である。ロジカルな分析をしてレポーティングする能力は一流だが、それだけでは上位ポストにありつくことはできない。

一方で、複数のライン長や共同経営者(パートナー、プリンシパル、ディレクターなど)のポジションに上り詰めたコンサルタントの多くは、話しかけやすいオーラをまとっている。難しいことでも噛み砕いて簡単に説明できることが特徴である。

話しかけやすいオーラをまとっていれば、相手が饒舌になるので自然と聞き役になれる。無理に自己開示をして自分自身を盛る必要性もない。相手に媚びる必要性もない。無理をしても関係性が破綻するだけだと田口は述べている。

そのような人を見分けることは簡単である。パーティなどで人の輪ができている人は、話しかけやすいオーラをまとっているという証拠である。話しかけて確認をすれば、お金持ちで社会的地位も安定していることが理解できるはずだ。

効果的にご縁をつなげるには相手の記憶に残る雑談が必要になる。エグゼクティブが雑談をビジネスツールに位置づけている理由は明白だったのである。雑談をビジネスツールとして捉えた書籍は多くはないので興味のある方にとっては新たな気付きになることだろう。

●尾藤克之(BITO Katsuyuki)
コラムニスト/経営コンサルタント。議員秘書、コンサルティング会社、IT系上場企業等の役員を経て現職。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ)『キーパーソンを味方につける技術』(ダイヤモンド社)など多数。
Amazonプロフィール