原爆投下を許すが忘れない

池田 信夫

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オバマ大統領がハノイで「戦争はどんな意図があろうとも、苦しみや悲劇をもたらすということを我々は学んだ」と演説したそうだが、これは欺瞞である。300万のベトナム人を殺したのは米軍であり、非戦闘員を大量虐殺した北爆は国際法違反だったが、アメリカは決して謝罪しない。

ベトナム人はそれを忘れていない。ホーチミン市には戦争記念館があり、戦争で破壊された建物や枯葉剤で障害を負った人々の写真などが掲示されている。彼らは「アメリカの戦争犯罪を忘れない」というが、今はアメリカと国交を回復し、オバマ大統領は武器輸出も解禁すると発表した。

原爆投下も戦争犯罪であることは明らかだが、オバマ大統領に謝罪を求めるのは筋違いだ。ヴェルサイユ条約によるドイツへの苛酷な報復が第2次大戦をまねいた教訓から、アメリカは日本に賠償を求めず、逆に経済援助をして日本の戦後の高度成長を実現した。

東京裁判が不公平だという不満もくすぶっているが、フランスの対独協力者は「人道に対する罪」を遡及適用され、1万人が裁判もなしに処刑された。終戦直後には、ヨーロッパ各国でそういう報復が横行したが、今は忘れるという合意が成立している。

それが公明正大な裁きだとはいえないが、こうした合意がなければ、いつまでたっても不毛な「歴史論争」が繰り返される。ドナルド・トランプが米軍基地の撤去もちらつかせている今、日米首脳が語るべきことは70年前の謝罪ではなく、日米同盟の堅持である。

Forgive your enemies, but never forget their names. ――John F. Kennedy