そこで最近は、ビットコインを用いて投資するビジネスが増えている。パターンはいくつかあるが、基本的にはビットコインによって何かの金融商品や事業に投資をし、配当はビットコインで受け取る形だ。大量のビットコインが必要になるので、運営者はファンドを設立することになる。
これだけ聞くと、現存通貨(例えば日本円)を投資家から集めてファンドを作って運用し、配当を支払うのと何ら変わらない。現存通貨のそれとの最大の違いは、「出資及び配当に関する法規制がない」ということだ。これを投資家向けに言い換えると、「資金の流れが当局にバレませんよ」「配当に税金がかかりませんよ」となる。こうなると飛びつかない理由はない。
このように、ビットコインとテクノロジーを組み合わせることによって、サイバー空間にタックスヘイブンが作り出せる。もちろん当局も馬鹿ではないので、このような税金逃れを防ぐために順次法律を制定している。日本でもビットコインの扱いに関する法案が成立した。今後投資を規制する法律も成立するだろう。
しかし法律は基本的にその国でしか機能しないので、規制がない国に組織を移転されると抑止できない。これは、タックスヘイブン国家に対して他国が干渉できないのと同種の構造である。
加えて、大企業や富裕層は過度の規制に反対するだろう。彼らはタックスヘイブンの存在を求めているからだ。もちろん彼らは正直にそんなことを言うはずもなく、代わりに「プライバシーの侵害」「国民の財産が国家に管理される」「ビットコインに依存し過ぎるといずれ処理しきれなくなる」等のレトリックで理論武装するだろう(実際にそれを主張するのはロビイストだ)。そして多くの個人事業主や中小企業のオーナーもこの意見に乗るだろう。「当局に知られない資産」に彼らが並々ならぬ興味を示すことは、社会人経験のある者なら容易に想像できる。
上記のような理由で、国家公認の仮想通貨ができる未来は来ないかもしれない。BlockStream 等の試みによって仮想通貨の普及率は上がるだろうが、最終的にはそのほとんどはデリバティブに使われるようになる可能性がある(参考:2015年12月時点の割合)。
リーガルテックにおいては、中央集権システムのとの組み合わせで国家公認の公平なシステムが構築できる。しかしフィンテックにおいては、ビットコインを用いたタックスヘイブンの運営が最大のビジネスになる可能性がある。フィンテックによって、大きな価値が世の中に新たに生まれているが、その果実のほとんどは富裕層が最終的に独占するのかもしれない。
株式会社アットメディア 研究員
小宮 自由(こみや・じゆう)
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