知的障害者の多くが買春をするという報道への違和感

尾藤 克之

昨日(5/30)掲載された朝日新聞の投稿が話題になっています。「子どもの買春・ポルノ被害、3人に1人が障害ある子」(朝日新聞デジタル)

私はライフワークとして長年にわたり障害者支援の活動をしています。本記事に思うところがあり、いささか私見を述べることをお許しいただきたい。

●調査の背景と信頼性

本調査は、厚労省が主管となり「児童相談所における児童買春、児童ポルノ被害児童への対応状況に関する研究」として実施されたものです。

背景・目的は、児童相談所における児童買春、児童ポルノ被害児童への対応実態を把握することです。調査手法としては児童買春等被害相談を報告した児童相談所を中心に実態のヒアリングを実施しています。厚労省の総務課児童福祉専門官 (内線7822)が担当窓口なのでこちらから照会可能です。

調査結果は以下のとおりです。全国の児童福祉司2,934人(有効回答は2,297人/78.3%)を対象。昨年4~9月に対応したケースのうち買春やポルノの被害が含まれているものを集計しています。被害者は合計266人で、9割超が女子児童。年齢は13~15歳=43.6%、16~18歳=33.5%です。また、6~12歳=18%、1~5歳も6人存在しており、買春=59%、ポルノ=31%、買春とポルノの複合被害が10%とあります。

内容を確認してみます。まず、「児童相談所が把握した子ども買春や子どもポルノの被害者の3人に1人が知的障害や発達障害などの何らかの障害があるか、その境界域とみられることが厚生労働省の調査でわかった。」とされています。最後に「被害者の2割は未就学の子どもと小学生とあることから被害が低年齢者に広がっていることが浮き彫りになった」と結論づけられています。

本調査は児童相談所の性的被害についてはじめて実態調査をしたものです。その点を鑑みれば、大変意義のある調査であることは間違いありません。しかし、児童相談所に被害者として届けられているのは実際の数%に過ぎません。また、知的障害者は仮に被害を受けたとしても正確に伝えることが困難であることが想定されます。数%という届出がそれを物語っており、露呈しにくいという問題がそこには存在します。

この記事を額面どおりに受け取れば、あたかも知的障害者の多くが売買春(このケースでは買春被害)をしているかのような印象を与えてしまいます。全体のなかのごく一部のサンプルを根拠に「児童相談所が把握した子ども買春や子どもポルノの被害者の3人に1人が知的障害や発達障害などの何らかの障害があるか、その境界域とみられることが厚生労働省の調査でわかった。」と結論づけるには少々無理があるように感じます。

さらに本調査結果が一般性をもつものか検証する必要性があります。2,297名のサンプルをもとに、統計解析を実施して精度を高めることで結果のもつ意味を再確認できます。また有効な打ち手を見つけるためのヒントも抽出できます。

●今後の課題

環境整備として次のことをおこなう必要性があると思われます。被害の届出をし易くするために匿名による調査やネットを活用した相談を実施するなどの施策が必要です。一方で、被害意識の認識が乏しいケースも想定されます。そのため学校等において啓蒙をはかり理解を深めていく施策も必要です。これらを踏まえたうえで、保護活動を充実させて関係機関の連携を強化することが望ましいと考えています。

少々話題を変えてみます。昨今バッシングを浴びている、舛添都知事ですが堅調な都の税収を背景に福祉行政には積極的な取組みをおこなっています。障害者行政に関しては、その実績を評価することができます。

尾藤克之
コラムニスト

追伸

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