昇進うつが急増中!?優秀な管理職ほど陥りやすい罠

※イラストは中尾自作による出版用ポートレート。

6月を迎えたこの時期、多くの企業で新入社員の受け入れや、新組織の体制にも落ち着きを見せ始める時期である。「5月病」を乗り越えた新入社員がいる一方で、「昇進うつ」と言われる管理職が増えてくるのもこの時期。

では、新任の管理職はどのようにして危機を乗り切ることが望ましいのだろうか?今回は、『部下が絶対、目標達成する「任せ方」』(PHP研究所)の著者である、中尾ゆうすけ氏(以下、中尾)に話しを聞いた。

●優秀な管理者ほど陥りやすい罠

--それまで第一線で活躍していた社員が、昇進して管理職になったことで、その役割や責任のプレッシャーからくるストレスなどが原因で昇進うつが発生すると言われている。これは会社にとっても本人にとっても大きな損失であることは言うまでも無い。中尾は昇進うつの原因について以下のように答えている。

中尾 新任の管理職は、会社規模にもよりますが、多くの場合30代後半~40代前半で、1990年代後半~2000年代半ばの就職氷河期の入社組です。その後、リーマンショックを乗り越え、がむしゃらに働いた世代ですから、管理職に選ばれる人材はまさに職場のエースといえるでしょう。

一方で後輩や部下がなかなか入ってこないため、実務は秀でているもののマネジメント力という観点では十分な経験の無いまま管理職になった方も多いのです。その結果、管理職でありながらプレーヤーになってしまい、チームとしての成果が求められているにもかかわらず、個人としての成果しか出せないという中でどうしてよいのか悩んでしまうケースが多いのです。これは明らかなマネジメント力不足です。

--それではどうしたら良いのだろうか。ビジネスパーソンにとって昇進昇格は切っても切り離すことはできない。会社から将来を嘱望されて昇進昇格を果たしてもパフォーマンスを発揮できなければ本末転倒である。これは切実な問題といえよう。

中尾 効果的な方法があります。それは、部下に仕事を「任せる」ということです。「任せる」ということは、一時的には生産性が間違いなく落ちますから、新任の管理職が優秀であればあるほど、「任せる」ことに躊躇してしまうのでしょう。しかし、長期的に見たら絶対的に必要なことなのです。

--しかし「任せる」とは一見、簡単なようで実は意外に難しく、そこに悩む管理職は多いはずである。なぜ、「任せる」ことができないのか。

中尾 理由は、いろいろあります。たとえば、任せ方がわからないというスキルの問題や、任せても部下が引き受けてくれないような人間関係の問題、部下のスキル不足…。これらは、原因がはっきりしていますので、対策もとりやすいのですが、一番の問題は、本人の意識の問題かもしれません。

先ほど言ったとおり、新任管理職は、職場のエースだった方ですから、自分でやった方が早いし、確実だし、ラクなんです。部下なんか信じられないし、任せることで確実に生産性が落ちることが優秀な人ほど見えているのです。

●管理職は任せる覚悟をもて

--どうすれば「任せる」ことができるのか。「任せる」という行為は簡単そうに見えて実は難しい。任せた結果が好ましくなければ自らを追い込む危険性もある。

中尾 「任せることができない理由を知る」ことです。理由さえわかれば、もともと優秀な方ですから自分で考えて何とかするようになります。問題は、それが本当の理由かどうかです。たとえば、任せることで、ミスや、納期の遅れを恐れるあまり、自分でやってしまうというケースは「ユーザーに迷惑をかけたくない」とか「数値目標を落とせない」ということを理由に挙げがちです。そこにさらに踏み込んで「それが本当の理由ですか?本当はその責任を負いたくないのではないですか?」と問うと、多くの人が目を背けていた事実に気づきショックを受けます。

本音の理由に気づいておらず、しかも責任逃れをしようとしていたという事実は優秀な人ほど認めたくないものです。その結果、気づかないまま「昇進うつ」になっていたということもあります。

また、中尾は、「任せる」には責任を負う覚悟が必要であると述べている。組織の成果を最大化するためにも、長期的な目線で部下を育成し「任せる」という決断が必要なのだと。新任の管理職や任せることに悩む管理職は参考になることだろう。

尾藤克之
コラムニスト

追伸

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