未発効の国連条約をいつまで放置?

包括的核実験禁止条約(CTBT)が1996年9月、国連総会で採択され、署名開始されて今年で20年目を迎える。今月13日にはCTBT機関準備委員会暫定技術事務局があるウィーンの国連で「CTBT20周年閣僚級会合」が開かれる。


▲署名開始から今年で20年目を迎えたCTBT(CTBT機関のHPから)

同会議には欧州連合(EU)のモゲリーニ外務・安全保障 政策上級代表、CTBT発効促進会議(第14条会議)の共同議長国カザフスタンのイドリソフ外相、CTBT機関準備委員会議長のルーマニアのコマンネスク外相、そしてキム・ウォンス国連軍縮担当上級代表代行とCTBT機関暫定技術事務局のゼルボ事務局長らが参加し、条約の早期発効を訴える。

オバマ米大統領は先月27日午後(日本時間)、米大統領として初めて被爆地広島の平和記念公園を訪問し、安倍晋三首相と共に原爆資料館を見学した後、原爆死没者慰霊碑に献花した。オバマ氏は被爆者の慰霊碑の前で祈り、「核なき世界」の実現を改めて世界に向かってアピールしたばかりだ。

核軍縮は国際社会で等しく受け入れられているが、CTBTは署名開始から20年が経過するが、依然、未発効だ。「核なき世界」の実現と「核の現実」の間には大きな乖離が存在する。

CTBTは2016年6月現在、署名国183カ国、批准国164カ国だが、条約発効に批准が不可欠な核開発能力保有国44カ国中8カ国が批准を終えていない。米国、中国、イスラエル、イラン、エジプトの5カ国は署名済みだが、未批准。インド、パキスタン、北朝鮮の3国は署名も批准もしていない。

「核なき世界」を訴えるオバマ大統領はCTBTを批准し、世界の模範とならなければならないが、上院で共和党の反対を受けてまだ批准を完了できずいる。米国の出方を伺っている中国はここ数年、「議会で検討中」というだけで批准していない。安保理常任理事国2カ国が未批准という現実がCTBT発効を阻止する最大要因となっていることは疑いがない。

CTBT機関の努力を笑うように、北朝鮮は過去4回、核実験を実施した。同国は2006月10月9日、初の核実験を実施した。その爆発規模は1キロトン以下、マグニチュード4.1(以下、M)、2回目(09年3月25日)の爆発規模は3−4キロトン、M4.52、3回目(13年2月12日)は爆発規模6キロトンから7キロトン、M4.9だった。そして今年1月6日の4回目は核実験周辺ではM4.8の地震波を観測している。同国は近い将来、5回目の核実験を計画中と予想されているのだ。

国連条約が20年間、批准できないということは異例だ。ジュネーブ軍縮会議の条約作成に問題があったという声も聞く、すなわち、CTBT第14条が条約発効を阻止しているという指摘だ。署名国、批准国数でCTBTは既に普遍的条約の域を達している。それでも発効できないのは、研究用、発電用の原子炉を保有する国44カ国の署名・批准を条約発効の条件としていたことだ。

例えば、北朝鮮が署名・批准を拒否し続ければ、他の全ての国連加盟国が署名・批准を完了したとしても条約は発効しない。北はCTBTを半永久的に未発効に置いておけるのだ。

条約の早期発効を実現する為に14条の改正案が聞かれたが、条約を改正した場合、署名・批准プロセスのやり直しが要求される。そのため、「未批准国を説得して批准させる方が時間の節約だ」(批准国関係者)という声がある。

当方は2008年6月、「普遍的条約、されど発効せず」というコラムを書いた。あれから8年が過ぎたが、今、同じテーマでコラムを書かざるを得ないのだ。

CTBTの最大の魅力は世界の全地域を網羅する「国際監視システム」(IMS)だ。IMSは単に、核実験監視の目的だけではなく、津波早期警報体制など地球環境問題の監視ネットとして利用できるからだ。IMSの利用は既に始まっている。核爆発によってもたらされる地震波、放射性核種、水中音波、微気圧振動をキャッチするIMSは337施設から構成され、現在約90%が完了済みだ。

なお、ジョージ・W・ブッシュ政権で国務長官を務めたコリン・パウエル氏は、「核兵器はもはや使用できない大量破壊兵器となった」と述べ、核兵器の保有、製造に疑問を呈したことがあったが、「使用できる核兵器」の開発が米国や一部の大国で密かに進められていることも指摘せざるを得ない。

北朝鮮を含む加盟国が「核なき世界」の実現で一致できるまで、CTBTは未発効のままで生き続けるか、それとも条約の改正に乗り出すか。条約署名開始20年目の今年、CTBT関係者は真剣に議論すべき時を迎えている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年6月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。