【映画評】シチズンフォー スノーデンの暴露

イラク戦争やグアンタナモ収容所に関するドキュメンタリー作品で知られる映画監督ローラ・ポイトラスのもとに、2013年初め、シチズンフォーというコードネームの情報提供者から連絡が入る。2013年6月、香港でのインタビューに現れたのは、当時29歳のCIAの元職員エドワード・スノーデンだった。スノーデンが語ったのは、米国政府によって全国民の通信が監視されているという衝撃的な内部告発。やがてこの事実は、ポイトラスと共にスノーデンを取材したジャーナリスト、グレン・グリーンウォルドの記事によって全世界を駆け巡ることになる…。

米政府による一般国民全ての通信の監視を暴露したエドワード・スノーデンの内部告発を描く迫真のドキュメンタリー「シチズンフォー スノーデンの暴露」。第87回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した衝撃作の日本公開が、こんなにも遅れてしまったことに対する不満はとりあえず置いておくとして、「これはSFではない」とのテロップではじまる本作のスリリングな展開は、ハリウッド大作のサスペンスをも凌駕するものだ。何しろ、エドワード・スノーデンが敵にまわしたのはアメリカ国家そのもの。スノーデン本人はもちろん、家族や恋人の身まで危険にさらす行為を、なぜ彼が行ったのか。香港のホテルの一室で行われたインタビューは、パソコンの設定や電話など、あらゆる情報手段に対して細心の注意を払いながらのもので、二大情報機関、CIAとNSA(国家安全保障局)の職員だったスノーデンの強固な意志が伝わってくる。スノーデンは行き過ぎた監視社会の恐怖を誰よりも肌で感じていたからこそ、この危険な告発に踏み切ったのだ。

本作は世紀の告発と呼ばれた事件が始まる決定的瞬間をキャッチし、その後の一大スクープを記録した貴重な映像資料である。メールやネットの閲覧記録だけではない。クレジットカードやポイントカード、IC乗車券まで、すべての情報が監視されていた事実に、プライバシーという概念が崩れ落ちる思いがする。現在も亡命中(2016年現在、ロシア国内、場所非通知)のスノーデン本人の映像と言葉によって描かれる本作の緊張感は、本物だけが醸し出す圧倒的なスリルだった。
【75点】
(原題「CITIZENFOUR」)
(米・独/ローラ・ポイトラス監督/エドワード・スノーデン、グレン・グリーンウォルド、ウィリアム・ビニー、他)
(緊張感度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年6月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。