巨大化したソフトバンクグループを担う男として注目されたニケシュ アローラ氏が株主総会を前にあっさりと退任が決まりました。たぶんですが、孫氏の失望ぶりは大変なものだったと思います。記事では22日付で退任となっていますが、想像するにアローラ氏と孫氏の間ではその前に相当の間話し合いがあったと思われます。
では、その電撃退任の理由ですが、報道にあるように孫氏が8月で60歳になった際にアローラ氏に「後進に道を譲る」つもりを後ずれさせたという生半可なレベルの話ではないと思っています。経済関係のゴシップネタがわんさと出てくる話のように見えます。
このところのソフトバンクグループの動きは実に不思議でありました。
まず、アリババ、スーパーセル、ガンホーの株式売却を通じて短期間に2兆円ほどの資金をかき集めています。この資金の使い先がわかりません。私はこのブログで米国ヤフーの買収に使うのではないかと書かせていただきましたが今のところ表向き、そのような動きは見て取れません。同社は借金体質であるため財務改善と説明していますが、その言葉通りに取るには疑問が残ります。
二番目にガンホーの創業者である孫泰蔵氏が同社の会長を今年初めに外れていることです。その泰蔵氏の長期ビジョンが見えません。私はソフトバンクグループに迎え入れたいのではないかと思っています。
三番目にアローラ氏をめぐる特別調査委員会です。これはアメリカの株主からアローラ氏がシルバーレイクという第三者の会社のアドバイザーを兼任していることは利益相反であってソフトバンクの役員にふさわしくないというクレームがあった問題について内部調査したものです。結論は「シロ」なのですが、その内容の詳細は明かされていません。
ニケシュ アローラ氏が「ソフトバンクの株を私財600億円をつぎ込んで買います」と発表した際、2015年8月21日付のこのブログで同氏をやや疑問視する内容を書かせていただきました。私にしては珍しいスキャンダラスな内容なのですが、その時から直感でおかしいという気がしていたので筆がそういう風に動いたのでしょう。孫氏とウマが合わない気がしたのです。大体その600億円の出どころもよくわかりませんでした。
あの頃の孫氏はまるで「恋愛して結婚することになりました」という記者会見のごとく、ニコニコした壇上の顔が印象的でした。が、その横に座るアローラ氏は表情をさほど変えず、クールなその奥底には「この会社からどれだけ抜けるか?」という秘めた野望が溢れていたように感じます。
2014年に入社祝いの165億円、2015年も80億円の報酬を貰ったアローラ氏がソフトバンクを辞めると思った理由は違うところにあると思っています。それが孫氏との経営方針の行き違いなのか、アローラ氏の身に降り注ぐ様々な過去の問題やシルバーレイクとの絡みなのか、アローラ氏が自分の成長路線はこの会社にないと思ったか、はたまた見えないところで彼が何かを仕掛けているのか、そこはわかりません。もう一つは12兆円を貸し込む銀行団がアローラ氏への信認に疑問符を付けた可能性もあるでしょう。
が、孫氏が「自分がやっぱりもう少し社長をやる」と発言した意味はアローラ氏に任せられないという疑惑があったとみています。表に出さなくても「不信感」が募るのは恋愛で「スキスキ」の100点満点から時間がたって減点されて及第点が維持できなくなったということでしょう。
この話を聞いて一番初めに思い出したのがユニクロ 柳井正氏が後継者ということで玉塚元一氏(現ローソン社長)を社長に昇格させた「事件」でしょう。その後、短期間で解任してご本人が社長に返り咲いています。あの時の柳井氏の「お怒りぶり」は印象的で今でも忘れません。
日本において創業者マインドのバトンタッチとは企業の成長よりも本質的価値観(=ブラッド)がもっと重要な要素ではないでしょうか?(孫氏をどうとるかは別ですが。)日本では家族経営、ヤクザの世界には盃を交わすといった非常に濃い血の交流がモノをいうときがあります。今更何を、と思われるかもしれませんが、案外、そんなものです。アローラ氏とは血を交わさず、札束を交わしたということです。人心はマネーでは買えないということを改めて見せつけたのが今回の「事件」ではないでしょうか?
創業者は本当に苦労します。これだけは間違いなく言えることです。
では今日はこのぐらいで。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 6月22日付より