この夏、絶妙スイーツのマリアージュを楽しむ

尾藤 克之

写真は氏家健治シェフ

参議院選挙も終わり、いよいよ夏本番である。以前、パティシエの知人に「暑い夏には甘いものが売れなくなる」と聞いたことがある。7月どころか、ゴールデンウイークを過ぎた辺りから秋口くらいまで売上が落ち込むそうだ。

「いやー、夏に甘いものは食べたくないですよね!」と知人。よって、夏場のメニューは総入れ替えになる。マンゴーやパイナップルなどフルーツを使ったものや、ゼリー状のもの、冷たいムース状に仕上げるなど、涼しさを感じさせる新商品開発に追われるそうだ。そして、暑い夏場をしのぎ、秋口からクリスマス商戦までが最高潮になる。

しかし暑い夏にも関わらず、堅調なスイーツがある。それがケンズカフェ東京(東京・新宿御苑前)の氏家健治シェフ(以下、氏家)が監修したガトーショコラである。フジテレビ「有吉くんの正直さんぽ」、TBS「ランク王国」、日本テレビ「ヒルナンデス! 」「嵐にしやがれ」などで紹介されたことがあるので、ご存知の方も多いと思う。

●挫折には成功のヒントが隠されている

氏家の著書、『1つ3000円のガトーショコラが飛ぶように売れるワケ 4倍値上げしても売れる仕組みの作り方』(SB新書)には、ガトーショコラ誕生の経緯やマーケティングエッセンスが鏤められている。

多くの人は「4倍値上げしても飛ぶように売れる」というキーワードに関心を持つことだろう。実際、この類のビジネス書には「何もしなくても稼げる」「楽に売れる」「秒速で稼ぐ」といった荒唐無稽の内容やタイトルで釣るものが多い。しかし本書のポイントは具体例が豊富な点にある。

当たり前のことだが楽して稼げるとは書いていない。「楽をせずに頑張れば4倍値上げしても飛ぶように売れる」という主旨に近い。元々、氏家はイタリアンシェフである。そこから、パティシエに転身するにあたり、多くの葛藤や苦労があったことは容易に推測できる。

事実、氏家はイタリアン・レストランの経営で一度挫折を経験している。その後、店を立て直してきたなかで、職人の個人商店主でも、売り方やブランディング、インターネットへの対応を真剣に考えるべきだと思い知らされたそうだ。

多くの成功者が語っているかも知れないが、日々、努力をしなければ成功を手にすることはできないのである。氏家は3,000円のガトーショコラ1本で勝負し成功を収め、自らのポジショニングを確立するに至る。この勝負勘は非常に興味深い。

●オリジナリティを追求するとは

ケンズカフェ東京のガトーショコラは一種類のみ3,000円(税込み)の一品しか取り扱っていない。ネーミングにも強いこだわりがあり、商品名は「特撰ガトーショコラ」と名づけられている。辞書で調べたこころ「特撰」には「特に優れたものとして選ぶこと。手間をかけること」と記されている。手間をかけた一品という意味なのだろう。

また、氏家が商品パッケージに強くこだわったChapterがあり興味をそそる。「特撰」であれば、食べる前からワクワク感が漂わなくてはいけない。「これはきっと美味いにちがいない」と期待をさせるパッケージングが相応しいと。日本には昔から風呂敷や熨斗の文化があったようにパッケージングにこだわりがある。そして、高級ブランド品をイメージさせる重厚な箱が完成した。厚紙のはり箱からはスイーツがはいっているなど夢想だにしない。

ガトーショコラの本家、フランスでの正式な呼び名はガトー・オ・ショコラである。チョコレートのケーキという意味だ。氏家は、ガトーショコラのほうが日本人には伝わりやすいからとフランス式にこだわるのをやめた。さらに、フランス料理店を100店、花屋を100店、床屋・クリーニング店もそれぞれ100店を探求したという。さらに、利益率を高めるために、当時まだ一般的ではなかったWEBでの販売にも目をつける。

「せっかくいいものを作っても、知名度やブランド力が低いばかりに多くのお客さまの手元まで届かないとしたら、作り手にとっても、買い手にとっても、もったいないこと。逆に、行列ができる人気店になったのに、売り方やブランディングを見誤ったばかりに人気を落として、世間から忘れ去られてしまったお店もあります。」(氏家)

パティシエとして成功した氏家が、挫折から学び実際に実行した施策は参考になることだろう。特に、仕事が上手くいかないと思っている人に読んでもらいたい。

●ガトーショコラのマリアージュとは

ここ数年くらいだろうか。マリアージュという言葉を使用する人が増えたような気がする。マリアージュとは飲み物と料理の組み合わせを指す。特に、ワインと料理の組み合わせについて語るときに「マリアージュ」という表現をつかう。

お客 「今日は牡蠣料理なのでシャブリでお願いします。」

お店 「今日の牡蠣にはシャブリは合いません。かえって魚介類の生臭さを増幅させてしまいます。今日の牡蠣はコクがあるので、香りも芳醇なシャンパーニュのマリアージュがよろしいかと思います。」

このような感じで使用するらしい。暑い夏にガトーショコラを楽しむにはどのような方法があるのだろうか。まず定番の深煎りのコーヒーやカフェオレ、ミルクティーによく合うが、ワインに合わせることもお勧めしたい。

氏家は、「白ワインでは、フルーティーなタイプやヴィンテージシャンパーニュ。赤ワインでは、メルロー・カベルネなどコクのあるタイプや熟成したブルゴーニュ。甘口のポートワインやフランスのバニュルスとも相性が良い」としている。個人的には、上記に加えて、スパークリングのモスカート・ダスティやアスティも絶妙であることを追記しておく。

PS

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尾藤克之
コラムニスト