鳥越立候補は小池より増田にとって痛手

八幡 和郎

東京都知事選挙は、鳥越俊太郎氏(76)が野党4党の統一候補となることが決まり、は鳥越氏を「統一候補」として支援する方針を決め、小池百合子元防衛相(63)、増田寛也元総務相(64)の三つどもえとなる可能性が多い。あと、野党の選考過程に不満を持つ宇都宮健児・元日本弁護士連合会会長(69)が立候補を強行するかどうかが焦点となる。果たして、宇都宮氏が立候補した場合に主要4候補の一人として扱うかどうか微妙である。

宇都宮氏はすでにポスターや事務所など確保していただろうから、その負担が無駄になるとすればだまって引き下がれないなどということも実務的にあるかもしれない。私は宇都宮氏の政策は支持できないが、筋が通っているという意味では立派なものだ。敬意をもって扱われるべき人物だ。

そういう意味も含めて候補者がでそろった段階での世論調査が重要な意味を持つとみられるが、ここでは、小池、増田、鳥越三氏の争いになるという前提でこれからを予想したい。

このように三つどもえとなった場合、三番手とみられてしまうと脱落してしまう可能性が強い。

たとえば、小池氏が世論調査で三位なら、与野党対決ムードで小池氏は失速するだろうし、増田氏が三位なら石原慎太郎氏が当選したときの明石氏と同じように泡沫候補化するだろう。鳥越阻止のために与党支持層は三位候補を見放すだろう。一方、鳥越氏が三位なら、自公推薦の増田氏より小池氏に流れる人が多いかもしれない。

小池氏と増田氏については、普通には当初は先立ちジャンケンで小池氏が先行し、時間が立つにつれて増田氏が自力を発揮するはずだが、鳥越氏が野党統一候補になったことで、ある程度の支持率は確保するとみられる以上、最初に小池氏が少し頭を抜け出した数字を世論調査でとり、たとえ二位でも鳥越氏と接近していたら苦しくなる可能性がある。その意味では、鳥越氏で野党がまとまったことは増田氏にとっては痛手だ。

そもそも、なぜ鳥越氏がなぜ野党候補がなったかといえば、野党4党連合+プロ市民+連合東京のなかで、どこかがどうしても嫌だということのない数少ない候補からだ。

なぜか?それは、なにごとにも、そんなに厳しい主張をせずいい加減だからだ。古賀茂明氏のように確信犯的に原発反対とか言われてしまうと、東京電力労組が主要組合の一つである連合東京は乗れない。あるいは長島昭久氏では共産党は乗れない。

そういう意味では、誰も積極的に反対しない鳥越氏は、都知事選挙で勝つかどうかよりも、総選挙に向けて団結を維持することのほうがより大きな関心事である野党幹部にとって最高の候補だ。

正直言って、鳥越氏は真摯な候補者とはいえない。76歳というのは知事公選が始まってから約300人の知事のなかで、岐阜県の武藤知事、千葉県の加納知事と並んで最奥例である。しかも、健康状態も万全でない。普通に考えて不適任である。

さらに、記者会見でも都政にほとんど興味がこれまでなかったことを露呈している。出生率について東京は1.1で全国平均1.4を下回り最低だが、「全国平均より上」との認識を示したが、これでは、都知事候補としてよりジャーナリストとしても現役続行できる知的な水準を失っている。

「戦後70年、時代の流れが変わってきたと感じた。国全体が流れを変え始めている。舵を切っているということに、少し私が流れを元に戻すという力になれば」というのでは、都政をあまりにも馬鹿にしている。

しかし、そうはいっても、野党統一候補である。しかも、テレビ関係者ということで、同業者のマスコミはかなり好意的に扱うし、週刊誌なども告示後は厳しいネガティブ報道はできないからそこそこの数字は出るとなれば、当選はしなくても二位を争う力があるとすれば、先行する小池氏を追うのでないかとみられる増田氏にとってより憂鬱な存在になろう。

それに対して、小池氏にとって鳥越氏は、たとえば石田純一氏らに比べて競合性は少ないし、ほかの候補でも女性などあまり競合性がある候補がいないのは有利な展開だ。小池氏にとっては与党の締め付けで伸び悩んでくるか、それとも締め付けが同情を呼び起こせるかが問題。

イメージと言うことでは、小池百合子、増田寛也、鳥越俊太郎と並べてみると、小池の名前がいちばん選挙向きだ。鳥越というのは、ややこしい名前だし、若い人たちにそんな知名度があるのか少し分からない。ああいう55年体制的な人は、現実的な若い人たちにはあまり受けそうもない。

また、別の機会に書きたいが、野党が民主党政権の現実路線から反対のための反対路線に戻ったとき、中高年は昔の路線だからそうアレルギーがなかったが、若い人たちにとっては第九条の呪文で平和がまもれるとか、消費税を引き上げなくとも社会保障の将来は大丈夫などというのは、不真面目でしかないのだ。

増田氏は服装一つとっても、どうしてあんなに暗いのか。イメージ戦略のアドバイザーは誰がやっているのかよく分からない。小池氏については、最大限うまくやったのだろうが、お疲れとかいうイメージになってくると辛いし、女性票でどの程度、優位を示せるか。

いずれにせよ、二強対決でなく三つどもえというのは、ちょっとしたことで、誰かが抜け出したり、脱落したりするので目が離せない。ただ、鳥越氏への一本化は、小池氏にとってよりは、増田氏にとって試練となりそうである。 

*鳥越氏の安全保障論はひどい。10年ほど前には緊張は緩和しているので防衛費は大幅に減らすべきだとと間が抜けたことをいったこともあるし、「そう簡単には戦争はできないものなのだ。そうした事から、中国の脅威といっても重大なものとは思っていない。ただ可能性として、中国が軍事力でやってくることはあるかもしれない。その場合は、日本の自衛隊が専守防衛の原則に従って行動し、侵略に対しては日本国民が立ち上がる。米国に助けてもらう必要はない。」。つまり、いざとなれば、自衛隊を先頭に日本人が立ち上がって戦えば撃退できるらしい。徴兵でもするつもりなのだろうか?少し前には、偽家系図問題などと言うのもあった。

 

八幡 和郎
光文社
2007-05-17