トルコのクーデターについて思うこと --- 鈴木 健介

寄稿

トルコで軍の一部がクーデターを起こした。
そして反乱は鎮圧され、多くの死傷者が出た。

トルコはイスラム諸国の中でも、最も「世俗化」された国だ。なので私は最初、今回のクーデターを起こしたのは、軍の中のイスラム過激派だと思った。ところが出てくる情報では、クーデターを起こしたのは軍の中でも穏健派・世俗主義派・反エルドアン派から、いややっぱりイスラム主義派だ、という話もあり、情報が錯綜している。エルドアン大統領になってからイスラム主義を強めていったトルコ。言論弾圧や人権問題など、強権と独裁によってエルドアン大統領の評判はずっと悪かった。しかし今回の反乱はわからないことだらけだ。

本当に穏健派の仕業なのか?
市民はエルドアン大統領に味方したのか?
ISやロシアは今回の事件に関係ないのか?
ギュレン師との対立の話が降ってわいたように感じるのはなぜか?

ここ最近のトルコを巡る情勢は、あまりにも目まぐるしい。

・ロシア軍機撃墜
・ロシアからの経済制裁
・イスタンブールで自爆テロ
・アンカラで爆弾テロ
・EUとトルコとの難民・移民問題
・イスラエルと6年ぶり国交正常化
・ロシアへの謝罪
・アタチュルク空港で自爆テロ

そして今回の、軍部のクーデター。

現時点で、今回の反乱について、私にはわからないことだらけだ。たとえ情報をたくさん集めても、裏の、そのまた裏の話が交錯して、一筋縄ではいかないだろう。私にできることは、トルコを旅した経験から、トルコについて考えることだけである。

私はトルコを3度、旅した。

1度目はアジアを横断した時の話。パキスタン、イランを旅した後、トルコに辿り着いた。国境を抜け、エルズルムという街まで来た時、街に女性が溢れ、その西欧的で露出的な服装を見た時、私は「あぁ、ここはもうヨーロッパなんだな」という思いを強烈に感じた。その前を旅したイスラム教の2ヶ国とあまりに違う。パキスタンではほぼ全ての男性が「シャルワール・カミース」という国民服を着ていて、女性にいたっては街で見かけることがほぼなかったし、イランでは女性を見かけるようにはなったのだが、全ての女性は「ヘジャブ」という布を頭から被り、夫以外の異性に対して、肌を絶対に見せなかった。パキスタン・イランの2ヶ国の旅は、まさに「異国」、そして「イスラム」という言葉がぴったりとはまった。そのせいもあって、トルコに入国して、特に女性を見ていると、ここはもうイスラム教の国ではなく、ヨーロッパなのではないかと、本当にそう思えた。エルズルムでそうなのだから、イスタンブールや、エーゲ海・地中海に面する各都市に至っては、まさにヨーロッパとしか思えなかった。

3度目のトルコの旅はその逆。ヨーロッパ18ヶ国を旅したあと、トルコに辿り着いた。ヨーロッパもバルカン半島の国々、とりわけボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、アルバニア辺りを旅すると、イスラム圏を旅する様な雰囲気に徐々に変わっていくのだが、それでもトルコのイスタンブールに辿り着いた時、街のいたる所にあるモスクや日に5度の大音量で流れるアザーンを聞くと、「あぁ、イスラムに来たんだな」という思いになったものだ。

イスラム圏から旅してくると、トルコはヨーロッパなのである。
ヨーロッパから旅してくると、トルコはイスラムそのものなのだ。

しかし、EU等ヨーロッパ諸国は、トルコをヨーロッパだとは見なしていないだろう。EUは、トルコのEU加盟を拒否し続けているにもかかわらず、NATOとしては加盟させ、イスラム圏からの防波堤として、最前線としてうまく利用している。難民・移民問題もそうだ。

そして、イスラム諸国でも、思想がより原理主義に近い国からすれば、トルコはイスラムではないのだろう。イスラムの名を語った(世俗化された)ニセモノの国、そう思われても仕方がないほど、トルコは確かに世俗化している。トルコ国内にそういった人間が少なからず存在するのは想像にたやすいし、それを支援する他国や集団も当然多いだろう。トルコの隣国には、イラン・イラク・シリア(IS)という強力なイスラム国家がある。

ヨーロッパでもあり、イスラムでもあるのに、ヨーロッパからもイスラムからも敵対視されるトルコ。周りにはさらに、ロシア、イスラエル、アメリカ(米軍基地)、クルド人。これらとの関係が問題を一層複雑にする。

今回の反乱で、一番得をしたのは誰だろうか?
エルドアン大統領は、これを機に独裁を強めていくのではないだろうか?
エルドアン大統領の独裁を喜ぶ国はどこか?

複雑な問題を1つ1つほぐしながら、これからもトルコについて考えていきたいが、
とにかく私はトルコが大好きである。
私と息子の寝間着は、赤地に白の三日月と星の、トルコの国旗柄である。

鈴木 健介

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旅での思索を書いた日記、「けんすけのこばなし」より