年金では足りない老後破産を乗り越えるには

尾藤 克之

日本のサラリーマンの収入は年々減少の一途をたどっています。OECD(経済協力開発機構)加盟国の雇用者報酬では、1997年時点での雇用者報酬を100とした場合の各国の比較を見ることができます。オーストラリア194.6、イギリス168.9、アメリカ158.0、スウェーデン158.0、フランス152.7、ドイツ138.6、日本88.9(OECDデータ及び、毎月勤労統計参照)。先進国で、日本のみが、雇用者報酬が下がり各国とも差が広がっています。

事実、1997年にはサラリーマンの平均年収は467万円でした。ところが、現在の平均年収は415万円まで減っています。さらに、年収の中央値は300万円です。全体の41%の世帯が年収300万円以下で、28%の世帯が貯金ゼロという現実があります。

忙しいビジネスマンが本業で活躍するための投資術』(みらいパブリッシング)の著者である、等々力秀(以下、等々力)は、サラリーマンを続けながら投資家としても活動をしています。今回は、投資の必要性について伺います。

●まじめに働いても老後破産する

日本企業の多くは「60歳定年制」をとっています。一般的なサラリーマンはそこで定年退職をし、以後は給与所得がなくなります。65歳で年金がもらえるまでは、退職金や貯金でしのがなければなりません。総務省「家計調査」によれば、60歳以降世帯の平均支出額は次のようになっています。

「60~69歳の世帯、月24万9214円」「70歳以降の世帯、月20万487円」。同調査ではゆとりあるセカンドライフのためには、60歳以降の夫婦で毎月28万円が必要とのデータも紹介されています。老後のシミュレーションについて、等々力は次のように述べています。

「60歳で定年退職して働かなかった場合、65歳までは無収入の状態が続きます。数値を簡略化してシミュレーションしてみます。

2000万円(退職金)-【28万円(月額必要額)×60ヶ月】=320万円

年金が受給される65歳までの間に、1600万円以上を使ってしまい、65歳時点では320万円しか残っていません。」(等々力)

日本年金機構によれば、夫がサラリーマンとして勤め厚生年金に40年間加入して、妻が第3号被保険者を含めて国民年金を40年間納めたモデル世帯の場合、年間支給額は毎月22万6000円(平成26年)とあります。

それを差し引いても、年金支給額が毎月22万円ということは、ゆとりある生活を送るために必要な28万円から、6万円も不足することになります。さらに、昨今問題になっている老後破産についても、等々力は次のように述べています。

「先ほどの計算式では、65歳時点で退職金は320万円しか残っていませんでした。年金が支給開始されても、毎月6万円の不足分が発生し、マイナスを退職金の残りで補填すると、70歳の時点で貯金がゼロになります。」(等々力)

「また、年金支給額が今後さらに減額になり、支給年齢も引き上げられて、消費税もアップしたら、どのように生活をしたら良いのでしょうか。昨今、メディアを賑わせている『老後破産』とはこのようなことを指すのです。『会社を辞めずに定年まで働き続ければ老後は安泰』という時代ではありません。」(同)

●複業しようにもお金も時間も無い

マネー系の雑誌では「サラリーマンのためのサイドビジネス」といった企画を目にすることがあります。とはいえ、仕事に追われているサラリーマンが「複業」などと言われても、そんなお金も時間も無いよいうのが現実かも知れません。

しかし、投資はサラリーマンにも認められている「複業」です。多くの会社には「副業禁止規定」がありますが、投資や資産運用を禁止している会社はありません。公務員にも認められている唯一の複業が投資です。

ところが関心はあっても、自分で投資を始める方は少数です。「元手が貯まってから投資しよう」「もっと情報を収集して勉強しよう」など、様々な意見がありますが、やらない理由にはなりません。家のローンや家賃、子供の学費、親の介護、自分の老後、おそらくお金はいくらあっても足りないのが現実です。

最後に、等々力のメッセージを引用し結びとします。「いまの世の中は、サラリーマン世帯にとっては夢も希望もありません。さらに、会社をクビになったり、会社が倒産したり、あるいは病気や家族の介護など、人生には様々なリスクが降りかかります。危機感を持たなければいけません。」

PS

アゴラ研究所は、次代の論客になりうる新しい才能を開拓するため、著者発掘セミナーを7月26日(火)に開催します。詳しくはこちら

尾藤克之
コラムニスト