【映画評】ハリウッドがひれ伏した銀行マン

1980年代を中心に、新興映画会社の送り出す作品がアメリカ映画界を席巻する現象が起きた。「ターミネーター」「ランボー/怒りの脱出」「プラトーン」「恋人たちの予感」「ダンス・ウィズ・ウルブズ」といった、メジャースタジオの主流ではない内容と斬新なキャストを配した、野心に満ちた作品群を資金面でサポートしたのは、オランダ人の銀行家フランズ・アフマンだったということは意外と知られていない。アフマンの映画界での功績、作品ゆかりの人々などのインタビューを交えて、映画業界の内幕と、アフマンの人物像に迫っていく…。

 

ハリウッドの新興映画会社の作品を、資金面で支えた伝説的銀行マン、フランズ・アフマンを取り扱ったドキュメンタリー「ハリウッドがひれ伏した銀行マン」は、80年代の名作誕生の裏側にせまる、バックステージもののような趣がある、興味深いドキュメンタリーである。

オランダ、ロッテルダムのいち銀行員に過ぎなかったフランズ・アフマンが映画に関わるようになったのは、イタリアの大プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスと知り合ったことがきっかけだ。新興映画会社が作る野心的な作品に投資するのは、それ自体が冒険だが、何といってもアフマンのすごいところは、映画の完成前に配給権を販売する“プリセールス”というシステムを作り出したことにある。

今では当たり前のこのシステムは、当時は画期的なものだった。アフマンは、プリセールスの作品の配給権と引き換えに得た対価を制作費の一部に活用するという形で、映画製作を資金面で支えていたのだ。製作会社ではなく作品に投資したところに鋭さがある。私は、フランズ・アフマンという人物をこの作品で初めて知ったが、物腰が柔らかで品があり、裏方に徹した仕事人という印象だ。この人のおかげで、80年代を代表する名作が誕生したのかと思うと、思わず感謝の気持ちがあふれる。

インタビューに登場するのは、ミッキー・ローク、オリヴァー・ストーン、ケヴィン・コスナーなど、ゆかりにスターたちだ。後半は、銀行、映画から離れねばならなくなったいきさつや、死期が迫ったアフマンの姿もとらえていく。ローゼマイン・アフマン監督はアフマンの娘なので、どうしてもアフマン賛美の内容に傾いているのはやむを得ないだろう。だが父と娘の関係性を盛り込んだことで、血の通った作品に仕上がった。その証拠に「氷の微笑」で知られるポール・ヴァーホーヴェン監督の目にも涙が!ハリウッドの映画製作の裏側を知る意味でも興味深い作品である。この記録映画に面白さを感じたら、ぜひ「キャノンフィルムズ爆走風雲録」も見てほしい。
【65点】
(原題「HOLLYWOOD BANKER」)
(オランダ/ローゼマイン・アフマン監督/フランズ・アフマン、アンニャ・アフマン、オリヴァー・ストーン、他)
(映画秘話度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年7月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。