変わり目の金融政策

この数年、各国の中央銀行の政策は経済を担う「センターの位置」を確実なものにしていました。FRBにしてもECBにしても日銀にしても、あるいはそれ以外の主要国においてもその金融政策会議を通じて発表される一言ひとことに注目が集まり、為替や株価に大きな影響を及ぼしてきました。

特に金融緩和については金利が0%に近づくと量的緩和を行い、それでもだめならマイナス金利という処方箋で市場にカンフル剤を打ち込み続けました。経済政策においてマネタリスト主導の調整機能が重視されてきた近年の歴史がそうさせてきたのでしょう。

本来の主役である財政政策では日本を除き、各国とも健全なる財政を維持するために支出を削減する傾向が強くでます。EUなどでは財政の健全性を一つのハードルとしますし、格付け機関の厳しい査定、さらには第三者が財政健全化について口出しをすることも多々あるため、積極的な財政政策が打ち出しにくいことは金融政策との比較論からすれば否定できないでしょう。

この夏、多くの国や地域で金融の緩和が期待されているもののそれに踏み込んだところはまだありません。欧州中央銀行(ECB)は昨日の政策会議で現状維持を決めました。ある程度は想定されていましたが、欧州の経済基盤が今一つであるにもかかわらず、方向性すら打ち出せなくなってきています。

英国は7月の政策会議で緩和するのではないかと見込まれていましたが、やはり現状維持に留めました。「8月には行うのではないか」という声は高いのですが、個人的には五分五分ではないかとみています。理由は国民投票で決まったEU離脱は実際には何も起きていないから誰も何も判断できない、よって金融政策だけ予防的な対策を打ち出すわけにはいかない、という視点が考えられるからです。

もう一つはイングランド銀行のカーニー総裁に対して批判の声が高まっていてやりづらくなっている点があります。これは英国の純血主義派が「カーニーさんはカナダ人。何故、英国の中銀の司令塔に外国人がいるのだ。これも英国がEUから離脱したくなった理由の一つである」という強引な論理が展開されていることもあります。

それ以外にオーストラリアとニュージーランドが次回の政策会議で利下げをする確率が5分5分とされていますが、個人的には疑問視しています。

では日本はどうでしょうか?今月の政策会議は7月28-29日予定されており、その次は9月20-21日までありません。まず、バーナンキ元FRB議長が来日したことで期待が高まっていた更なる異次元の奇策でありますが、黒田総裁があっさりと否定した報道が流れました。日経がBBCからの引用として「ヘリコプターマネー政策について『必要性も可能性もない』とし、大型の経済対策にあわせて同様の政策を実施するとの市場の一部観測を否定した」とあります。但し、BBCがこの取材をいつ行ったかは公表されていません。これを受けて円は一時107円台から105円台への円高となっています。

黒田総裁がマイナス金利を導入し、「どや顔」を見せてからは日銀政策への非難が多く、三菱UFJの反乱もあるなど厳しい状況に立たされています。いまだに必要あらば緩和するという発言は繰り返していますが、今、日銀が何をしたいのか、よく見えなくなってきていることは一つ指摘しておきたいと思います。

黒田氏が2013年に総裁になった際、インフレ率2%を達成するという明白な目標をもっていました。総裁ご本人はその目標時期をその後、何度も後ずれさせているものの要は「金融政策では達成しえない」ことがはっきりしています。つまり、今の日銀政策はインフレ目標よりも世界の中の一中央銀行として「皆と仲良く歩調を合わせて泳いでいる 」だけであり、期待感は明らかに剥離しています。

では本命のアメリカFRBはどうでしょうか?今月は26-27日に開催予定ですが、金融市場ではほとんど期待値ゼロで話題にも挙がってきません。かつては仮に政策変更がないとしてもそのステートメントに多大なる注目が集まったものです。ところがハト派のイエレン議長が珍しく「近いうちに金利を上げる環境が整った」と言い放った直後に英国の反乱があり、元の木阿弥になっています。つまり、ステートメントそのものに期待値が下がっているともいえるかもしれません。

個人的に思うことはマイナス金利の効果は不明であり、ECBや日本などがこれ以上のマイナス金利を推し進める十分な論理的根拠がなく、手詰まり感が出ている点です。マイナス金利の考え方は今お金を使うより使わない方がお金が減るということでした。が、市場はそう理解しておらず、将来の成長がないのだからお金を使うモチベーションがないと捉えています。日本の国債は確か15年物までマイナスになっていますが、これは15年たっても一歩も成長しないともいえるのです。この市場に民間部門はどうして投資をしたいと思いますか?金利は低くてもプラスであるべきであってアメリカがマイナス金利に踏み込まなかった点は評価できると思います。

では、日本はどうしたら活性化するか、ですが、ベーシックインカム制度は今一度検証してもよいかと思います。これは年金の非加入者を救済する一方、医療費など社会保障費がなくなるか、大幅に削減できる点において日本のような成熟国家でかつ少子高齢化が進む国においてはプラス面も多く、検討する意味があるかもしれません。

つまり、ハコモノ政策でもないし、金融政策でもない、一種の「社会政策」を打ち出すべきではないでしょうか?
個人的には金融政策に一喜一憂していた時代はほぼ終焉し、次の対策を打ち出すことが世界主要国にとっての喫緊の課題ではないかと思います。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月22日付より

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。