カリスマに弱い日本的経営:『東芝 粉飾の原点』

小笠原 啓
日経BP社
★★★☆☆


東芝の粉飾決算の全容は、まだ明らかになっていない。経営陣が情報を隠蔽し、刑事責任が追及されていないためだ。2467億円もの「不適切会計」が、今のところ旧経営陣への損害賠償訴訟で究明されているだけというのは奇妙だ。その一つの原因は粉飾が長期間にわたって行なわれ、社内全体に行き渡っていたためだろう。

一連の事件の発端になったのは「カリスマ経営者」といわれた西田厚聰氏である。彼はノートパソコンで東芝を世界のトップメーカーにし、2005年に社長に就任した。「原子力ルネサンス」といわれていた時代の中で、東芝はウェスティングハウスを6600億円で買収し、フラッシュメモリに巨額の重点投資を行なった。

彼の判断は、当時としては合理的だった。地球温暖化問題の切り札として「原子力ルネサンス」といわれ、東芝が開発したNAND型フラッシュメモリが注目を浴びているとき、それに集中投資する決断力は高く評価された。しかし彼の「チャレンジ」は現場には同調圧力となり、利益を「お化粧」することが常態になった。

この決断は3・11で裏目に出たが、フラッシュメモリが黒字を稼いだため、粉飾の原資ができてしまった。しかしそういう余裕がなくなって、耐えられなくなった現場が内部告発しはじめた。その内部告発をもとに書かれたのが本書である。

日本の企業は分権的な「家」の合意で運営され、強い権力者を排除するようにできている。それはこのようにカリスマ的な指導者がトップダウンで命令すると、それに抵抗するしくみがないからだ。日本で議会が機能しないのも、同じ理由である。強いリーダーと、それに対抗するチェックシステムをつくることが、日本の企業にも政治にも必要だろう。