ゴジラ映画に思うこと

渡 まち子

7月29日の「シン・ゴジラ」の公開を前にして、世の中はゴジラ一色!ケーブルテレビでは過去のゴジラ映画を特集し、美術館でのゴジラ展や、各種イベントなどもにぎやかに開催されている。改めてその人気ぶりに驚くばかりだ。

そもそもゴジラって何?という映画ファンも多いと思うので、さわりだけ解説しておくと、ゴジラは、架空の怪獣。海底に潜んでいた怪獣ゴジラは、度重なる水爆実験によって目を覚まし、日本に現れて破壊の限りを尽くすというのが物語の大筋だ。1954年の第1作「ゴジラ」は、日本映画屈指の名作とされている。古いモノクロ映画で、現代の高度なCGを見慣れた目にはミニチュアによる撮影は稚拙に思えても、特撮という特異なジャンルの傑作であることは間違いない。

ビキニ環礁での核実験、第五福竜丸の被爆事件など、世界での核の脅威を怪獣という形で視覚化したことが、まずは特筆だ。劇中に登場する、死を覚悟した母親が子どもに「お父さんのところに行くのよ」というせりふは、戦争で命を落とした人々の記憶がまだしっかりと焼き付いている世相を表している。空襲、原爆を経験した日本人は、圧倒的な脅威の前では都市など簡単に破壊されてしまうことを知っているのだ。現実世界で味わった戦争の恐怖が、一見荒唐無稽に思えるゴジラ映画には色濃く反映されている。

そうした本多猪四郎監督の演出と共に、特撮監督・円谷英二や作曲家・伊福部昭など、才能ある人々の仕事ぶりも評価が高い。その後、日本映画界では、多くのゴジラシリーズや怪獣ものが作られたが、やはりこの第1作に勝るものはないだろう。ハリウッドでもゴジラは映画化されたが、首をかしげたくなるような珍作もあれば、2014年のギャレス・エドワーズ監督による力作も。いずれにしても、ゴジラの世界規模での人気を裏付けている。

クジラのように巨大で、ゴリラのように恐ろしいもの。それがゴジラだ。時代によって恐怖の対象は変わってくる。今、私たちが最も恐れるべきものは何だろう。改めて考えてみるためにも、圧倒的な人気を誇るゴジラ映画の原点を知るためにも、本多猪四郎版1954年の「ゴジラ」にぜひ出会ってほしい。


(出演:宝田明、志村喬、河内桃子、他)

(1954年/日本/本多猪四郎監督/原題「ゴジラ」)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年7月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。