珍しい本を読んだ。渡邉陽子さんの『オリンピックと自衛隊』(並木書房)という本だ。私はスポーツが好きではないから、オリンピックにも殆ど興味がない。だから、オリンピックの詳しい仕組みなど知らないし、どのように運営されてきたのかにも興味がなかった。
だが、オリンピックと自衛隊というタイトルに興味を持った。何故、オリンピックに自衛隊が関与するのか、全く想像もつかなかったからだ。
本書を一読して驚いたが、世界各国でオリンピックが開催される際、各国の軍隊がオリンピックの開催に協力するのが、明文化されていない慣習となっている。我が国の自衛隊が各国の「軍隊」と同じなら、慣習という形で対応することも可能だろうが、我が国の自衛隊は「戦力」に該当する「軍隊」ではなく「戦力に至らない自衛力」を有する「自衛隊」とされているために、各国の軍隊と同じようにするわけにはいかない。そのために東京オリンピックを開催する際に、自衛隊がオリンピックの開催に協力するための法改正が行われている。かつての東京オリンピックで自衛隊は素晴らしい活躍をした。次の東京オリンピックでも素晴らしい活躍をするだろう。
自衛隊のオリンピック支援の中の花形は、式典への協力だ。開会式では、防大生が選手を先導し、音楽隊がファンファーレを演奏する。五輪旗を奉持するのも海上自衛隊の旗章部隊だ。厳かで華やかな式典を挙行するために自衛隊が力の限り協力しているのだ。また、表に出ることはないが、裏を支えている自衛隊員も存在する。たとえば、通信連絡員や祝砲隊がそれにあたる。
オリンピックと自衛隊。不思議なタイトルだと思ったが、読んでみると不思議でもなんでもない。むしろ、自衛隊が存在しなければ、日本でオリンピックを成功させることなど不可能なのだ。無知は怖いし、傲慢だ。これだけ力を尽くしていた自衛隊の働きを全く知らなかった。東京オリンピックの際には、自衛隊の活躍にも注目することにしたい。
編集部より:この記事は政治学者・岩田温氏のブログ「岩田温の備忘録」2016年8月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は岩田温の備忘録をご覧ください。