中国軍の「ヤル気」にどう対応するか

井本 省吾

沖縄県の尖閣諸島周辺で中国海警局の挑発行動が拡大している。8日は海警局の公船13隻が領海の外側の接続水域を航行し、一時は過去最大の15隻に増えた。接続水域から断続的に領海に侵入している。

周辺には200~300隻の中国漁船も航行、中国漁船の活動を理由に居座る構えを見せている。「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国の固有の領土であり、中国の漁船が活動するのは当然だ」というのが中国側の言い分だ。

同時に中国軍の尖閣侵入も強まっており、前回のブログで記したように、一触即発の危機も見られた。

中国経済の悪化から、習近平国家主席は国民の不満を外に向けるため、「悪の軍国主義国家・日本」(中国国内向けの説明)への攻勢を強めているとの見方がある。

南シナ海を巡る仲裁裁判所の判決が示され、「中国は国際法に従え」と言われ、中国政府の面子が丸つぶれ。その先頭に立って「中国は仲裁を受け入れよ。国際法を守れ」と言っているのが安倍政権なので、そこに攻勢をかけねば中国軍をはじめ、国民の反習活動が強まり、政権基盤が揺らぐ。

最近の東シナ海攻勢はそうした中国の経済不振、政権基盤の揺らぎを反映している、という見方が強まっている。

中国は日本の空自機や海保にギリギリまで攻撃の嫌がらせを仕掛け、やむにやまれず日本から手出しする、先制的に攻撃してくるのを待っているのではないか。そうなれば、中国はあらゆるウソと誇張の情報を世界と国内のメディアに向けて発信し、状況を有利に展開しようと行動するだろう。

「わが国の領土内で安全作業を実施中の中国航空機に、日本の戦闘機が高速で接近挑発し、突然攻撃をしかけた。無謀な軍国主義国家、日本の真の意図が暴露された瞬間で、わが軍は正当防衛のために戦わざるをえない事態に陥った」とかなんとか、膨大なウソと誇張情報を世界にばらまくに相違ない。

日本が最初に攻撃に踏み切ったのは確かなので、中国人民の憤激は高まり、習政権の支持率が急上昇、中国軍も自分たちの存在価値が高まり、行動を拡大できる。

だから、日本政府としてはなんとしても自分から手出しはしがたい。すると、どうなるか。

もともと9条信仰が高く、戦争大反対の空気の中で、安倍政権は「非核3原則」を撤廃しないと宣言、防衛費の増額も極めて困難な状況を余儀なくされている。

「今そこにある危機」を読めない日本人は圧倒的に多く、日本のメディアも「その危機」に対して、極めて抑制的、慎重な記事しか載せない。

「事態をあおるな!」というのが新聞各社の幹部の暗黙の方針だ。政府も中国の尖閣領域への侵攻に対して中国政府に「厳重抗議」するだけで、それ以上の行動をとれない。

日本の攻撃がないことを100も承知の中国軍は次第に行動が傍若無人となり、尖閣領域へは自国の領海での行動という姿勢を強め、世界にもそう宣言している。

「ウソも100回言えば、本当になる」。だって、日本政府は抗議はすれど、国際法違反を中止させる行動をとらないではないか。実質的に中国の行動を黙認している。

日本人のアンケート調査などを見ると、「危ない行動に出るくらいなら、中国軍の行動を大目に見るくらいでいいという意見が多いではないか」と見ている欧米政府や欧米のメディアも少なくない。

つまり、中国にとっては今の侵略行動を続けて、どっちにころんでもプラスなのだ。日本には反日=親中の論者も多い。彼らがふえるような情報戦、心理戦、法律戦を展開し、「戦わずせずして日本を中国政権の支配下に置く」。

沖縄ではすでにその状況が整いつつあり、本土内でもヘイトスピーチ法などの流れは広がっている。不法移民もふえており、(中国に対して)物言えば唇寒し、の空気も徐々に広がっているようにも感じられる。

日本人は本当に「今そこにある危機」への対処を考えているんだろうか。平和であることは素晴らしい。しかし、戦争の準備をしないことが平和を守るのではない。むしろ準備をして置くことが平和を守ることになる。

この「軍事知能」の再訓練が今の日本人には大事なのだ、と改めて痛感する昨今である。