都議会議員の「都落ち」立候補に対する疑問

渡瀬 裕哉

「都落ち」候補者育成のために東京都民は税金を払っているわけではない

都知事選挙は地方消滅で話題となった増田寛也氏が出馬したことで東京と地方の歪な関係を見直すことに一石を投じる選挙となりました。また、鳥越氏のインタビュー記事が選挙後も物議を醸していますが、国政政党の候補者選定プロセスを問う結果になったことも大きな意味があったと思います。

ところで、都議選まで残り1年、2016年になってから若手都議会議員の地方への国政転出という話題が少しづつ目につくようになってきたように感じます。

大田区選出の田中健さんは民進党の静岡県第4選挙区支部長として決定しました。

田中さんは旧富士川市(現・富士市)出身でもあることから「本当の地元」に戻ったということなのでしょう。衆議院議員の細野豪志さんの秘書を務めていたこともあり、ご縁がある静岡県に出戻りする運びになったものと思います。都知事選挙と同時に行われた大田区の都議補選は同氏の静岡転出が原因です。

また、世田谷区選出の塩村文夏さんも今年4月に「広島県第3区支部長に」ということで民進党広島県連が調整している旨が報道されました。

塩村さんは広島県福山市出身ということで直接の地元ではありませんが、飲酒運転で昨年摘発されて民主党を離党した元衆議院議員の橋本博明さん(現在、安芸太田町長選に立候補表明されていますが凄いところだ・・・)の代わりを探している中での引き抜きという文脈でしょう。塩村さんご自身がコメントしていない中で県連から先に引き抜き情報が出るということもいかがなものかと思います。

都議会議員の里帰りは個人の選択としては理解できるものの、当該政党の意思決定に関しては疑問を持たざるを得ません。東京都民は地方で国会議員に転出する人々を育てるために税金を支払っているわけではないからです。

飲酒運転で摘発された選挙区候補者の穴埋めに都議会議員を引き抜こうとする無節操さ

東京都は地方出身者も多く存在しているため、東京都に住んでいる有権者が須らく東京一極集中論者になるわけではないことは理解しています。むしろ、都議会公明党のように所属議員の地方出身者比率が相対的に高い政党があっても違和感があるわけではありません。

地元意識を地方の出身地域に持ち続けたままでも東京都民のために働くことはできるでしょう。自らの出身地で親御さんもおられる地域にアイデンティティーを持つことも人間の情として理解できます。大都市行政を理解していることが地方の国政候補者にとってプラスになる部分もあるかもしれません。

しかし、都議会議員として東京都民のために働くと一度決めた人が国会議員になることを目的として里帰りすることには強い違和感を感じます。

なぜなら、当該議員たちの「都落ち」問題が浮上するまでは、東京都の有権者は東京の選挙区で議員たちが頑張り続けることを暗黙の了解としていたと思うからです。

野党・民進党の地方人材が不足していることは理解できますが、政局上の悪手で国政行きが手詰まった若手の都議会議員に対し、地方の選挙区の国会議員の椅子をチラつかせて有権者を蔑ろにすることを覚えさせる人材育成方針は見直すべきです。東京都民の政治への信頼感も徒に傷つけることにもなります。

少なくとも前任者が飲酒運転で摘発された穴埋めに都議会議員を田舎に引き抜こうとしたり、労組が運動面を支援することを前提に若くて見た目が良い候補者を適当に立てようとする文化を止めてほしいものです。

国政政党は人材育成に関する基本方針と基本戦略を立案するべきだ

「若い時期に都議会議員を経験させた後に地方の国政選挙の候補者にする」ということが政党としての一本筋の通った人材育成方針として出来上がっているとしたら、筆者はそれは一つの考え方として尊重するべきだと思います。

しかし、現状のように行き当たりばったりの候補者選定を繰り返していれば良い人材は政治の道を選ばなくなります。その結果として特定政党だけでなく議員の質の劣化に繋がっていき、国民の政治不信を助長するものになるでしょう。

各政党が任命する候補者は、その政党にとっての候補者としての意味があるだけでなく、敵対する政党候補者にとっては切磋琢磨を積む人生の競争相手になります。

主要政党は責任ある公党として候補者選定に向けた人材育成に関する基本方針と基本戦略を立案・公表していくべきでしょう。

 

 

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