高島屋や三越伊勢丹がアジアで展開「逆タイムマシン経営」

内藤 忍

日本の百貨店のアジア進出が加速しています。7月30日にベトナムのホーチミンに高島屋が開業しました。日系百貨店の進出は初めてということです(写真はホーチミンのマジェスティックホテルのテラスレストラン)。

また、三越伊勢丹ホールディングスも野村不動産ホールディングスと組んで、フィリピンに進出します。2022年の部分開業という予定ですが、商業施設と住宅の一体開発で、40階建てのマンションを4棟建設し、低層部に商業施設として百貨店が入る予定です。総事業費500億円という思い切った投資になります。

高島屋グループは、さらにタイのバンコクにも出店計画があるそうです。カンボジアには既にイオンモールが出来ていますし、アジアの新興国での日本の小売業の陣取り合戦が始まる可能性があると思います。

このように日本の百貨店がアジア進出を急ぐ理由は、国内における競争力の低下があります。国内の小売業は細分化・専門化が進み、百貨店のような総花的な販売チャネルは強みを持たない業態になってしまいました。伊勢丹、三越、高島屋といったブランドも年配の人にはそれなりの価値があるようですが、若年層には響きません。ネット販売も広がって、百貨店の顧客層は国内では縮小傾向にあるのです。

アジアは国内とは対照的です。マーケット自体が経済成長で大きく広がることが期待でき、地元には日本流の高品質なサービスを提供する小売業がほとんど存在しません。日本ブランドの小売業が進出すれば、差別化によってビジネスとして長期的に大きく成長すると考えられるのです。

アメリカのネットビジネスを日本に持ち込んだ孫正義さんの手法は「タイムマシン経営」と呼ばれますが、日本の高品質の小売ビジネスをアジアに持ち込もうとしている日本の百貨店の手法は「逆タイムマシン経営」と見なすことができます。

新興国への進出は国内とは異なるリスクがあります。顧客属性も異なりますから、日本流がそのまま通用するとは限りません。しかし、時間をかけて現地のニーズに対応するサービスや品ぞろえをしていけば、経済成長による恩恵を国内以上に受けることが可能になります。また、アジアにもビジネスを広げることで、リスク分散になり、日本に偏ったビジネスポートフォリオを見直すことができます。

これは、資産運用をしている個人投資家に重要な示唆を与えてくれます。海外投資とは、成長する市場に自分の資産を配分することを意味します。そして、それによって国内に偏った資産配分をグローバルに分散していくことができるのです。

5年後、10年後の高島屋、三越伊勢丹の現地でのプレゼンスがどうなっているのか。今から楽しみです。

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※内藤忍、及び株式会社資産デザイン研究所をはじめとする関連会社は、資産配分などの投資アドバイスは行いますが、金融商品の個別銘柄の勧誘・推奨などの投資助言行為は一切行っておりません。また投資の最終判断はご自身でお願いいたします。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2016年8月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。