大工の棟梁のビジネススキルが秀逸だった件

左が白鳥。中央は作家の森浩美氏。他、ザ・ニュースペーパー

「大工」という仕事は、江戸時代では花形の仕事でしたが、いまでも子供の「なりたい職業ランキング」の上位に名を連ねています。第一生命保険(2015年)の調査によれば「大工」は男の子のなりたい職業の5位です。これは「医師6位」「学者・博士8位」「宇宙飛行士9位」を上回ります。NHKの連載テレビ小説「天うらら」(1998年)が放送された時には、大工の人気は1位でした。

大工の仕事と、ビジネスパーソンの仕事には共通項がたくさん存在します。仕事の進め方、解決策、考え方などは一般のビジネスにも通じるのです。今回は、「大工の棟梁に学ぶプロジェクトマネジメント」 (マイナビ新書) の著者で、ライター・放送作家の白鳥美子氏(以下、白鳥)に、大工のプロジェクトマネジメントについて伺います。

●大工の棟梁は優秀なプロジェクトマネジャー

まず最初に、大工の棟梁の役割について教えてください。

「棟梁は現場のリーダーのことです。ビジネスやプロジェクトの責任者をプロマネ(Project Manager)といいますが、プロマネはプロジェクトの計画と実行に総合的な責任を持つ職務のことです。 プロマネの力量がプロジェクトのクオリティに影響を及ぼすように、棟梁の力量は現場の士気やチームワークに影響を及ぼします。」(白鳥)

「以前、このようなことがありました。現場に、若い職人がやって来たとき、挨拶もそこそこで仕事をはじめようとしました。棟梁はその職人に対して「今日の作業は確認してきたか?」と声をかけました。若い職人は『大丈夫です』と回答しましたが、現場の職人が棟梁にとる態度としては失礼なように感じたのです。思わず棟梁に『いまの態度は失礼ではないのか』とたずねました。」(同)

「棟梁は次のように答えました。『態度がどうとか、そんなことは関係ない。大事なことは仕事の出来栄え。本人が大丈夫というならそれを信じればいい。人を不信な眼で見てはいけないよ』。諭されたのは私のほうでした。」(同)

この棟梁の話のあと、「メンバーの気持ちがわからない」「部下が指示を聞かない」「リーダーとしての役割がわからない」など、多くのマネジメント業務に悩んでいる友人・知人たちの顔が頭に浮かんできそうです。

ビジネスの現場や、マネジメントで顕在化している悩みは、大工の棟梁が既に解決していました。ビジネスは個ではなく、チームで対応することが多いと思いますが、成功の秘訣は棟梁が持っていたのです。

●棟梁は指示は大まかに見えて大胆だった

棟梁のマネジメントの秘訣について教えてください。

「大工の現場は職人が多いので、日によって頻繁にメンバーが入れ替わります。愛想が良い人がいれば、黙々と作業をする人もいます。棟梁は細かい指示は出しません。大まかに『お前の仕事はいつまでに何をすることだ』と指示をするだけです。この大まかなイメージはプロジェクトにおけるゴールです。まずは大まかにゴールを共有するのです。」(白鳥)

なぜ、大まかなゴールなのでしょうか。ビジネスの現場であればゴールを明確化して細かく指示をしているはずですが。

「現場は幾つもの業者が出入りをします。ゴールまでに数百の人が入れ変わります。そのたびに『この人はこういう能力があって、こういう人だから』とか考えても意味がありません。職人のプロが集まっているわけですから指示は大まかで良いのです。また、頭っから信用することが大切です。棟梁は大まかに指示をしたあと『よろしくな!』で通じるわけです。」(白鳥)

「棟梁は、現場でトラブルが発生することを知っています。現場がモメたり荒れたりし出したら『しめた!』ってもんだと。言いたいことで言い合ったあとはスッキリ納まるもので、よりよくなっていると。ですから、多くの仕事やプロジェクトでモメたり荒れたりし出したら『よーし、来た来た!』って受け止めてもらいたいのです。」(同)

大工の棟梁のスキルは、多くのビジネスパーソンにとって役立つものが多いはずです。プロジェクトベースでの仕事が多い方、日頃のマネジメントに悩んでいる方は、ぜひ棟梁の知恵を参考にしてください。

PS

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尾藤克之
コラムニスト