V4グループ首脳の「私の主張」

メルケル独首相は26日、ポーランドの首都ワルシャワを訪問し、ポーランド、チェコ、スロバキア、そしてハンガリーのヴィシェグラード・グループ(V4)首脳と難民政策などについて意見を交換した。
V4は、シリア、イラクなどから難民が欧州に殺到して以来、メルケル首相の“難民ウエルカム政策”を激しく批判し、ブリュッセル(欧州連合=EU)の難民分担案に強く反対してきた。結果は、予想されたことだが、「V4との妥協点を模索する」というメルケル首相の思惑は空振りに終わり、難民政策では、V4とメルケル首相の間に大きな溝が改めて浮き彫りにされた。

そこで、難民政策に対するV4グループの首脳の声をまとめておく。V4グループは今年、創設25年目を迎えた地域協力機構だ。

①ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相はEU主導の政策に常に異議を唱えてきた“EUの異端児”と呼ばれる政治家だ。メルケル首相との会談では、「EUの難民政策の修正を求める」と早々と戦う姿勢を示してきたほどだ。
オルバン首相はワルシャワ首脳会談前、対セルビアの国境線の壁建設拡大を宣言し、「われわれの国境を花や動物の人形で守ることはできない。国防は軍隊、警察、そして武器だ」と述べ、難民ウエルカム政策を実施するメルケル首相を間接的に批判している。

②チェコのボフスラフ・ソボトカ首相は25日、ワルシャワの首脳会談に先駆けメルケル首相とプラハで会談したが、「加盟国に難民の強制的な受け入れを要求するやり方は容認できない」と述べ、「わが国はイスラム系難民を受け入れない」と強調し、メルケル首相にストレートパンチをくらわしている。
プラハ政府建物前では市民から「メルケル、出ていけ」といったシュプレヒコールが響き、同首相の難民政策への批判が強いことを物語った。

ソボトカ首相は、「歴史も文化も異なる難民を迎えることを好ましくない。そのうえ、イスラム過激派テロ組織『イスラム国』(IS)に属するテロリストが難民の中に混ざって入ってくる」と強調し、フランスやドイツでのISのテロ事件を指摘し、「イスラム系難民の社会統合は容易ではないという現実がある」と主張している。

③ホスト国のポーランドのベアタ・シドゥウォ首相は、「難民政策でわれわれは一致を見出さなければならない」と述べ、「難民の分配ではなく、紛争地での開発・人道支援の拡大」を提案し、ブリュッセルの難民政策との妥協を模索する姿勢を示している

ちなみに、同国のヴィトルド・ヴァシチコフスキ外相はドイツ通信(DPA)とのインタビューの中で、「ドイツの難民政策は非常に利己的な計算に基づいている」と批判し、ドイツの難民政策を“自国中心”だと断言している。

④最後は、今年7月1日からEU議長国となったスロバキアだ。同国のロバルト・フィツォ首相は、「わが国はイスラム系難民を受け入れる考えはない」と宣言してきた中欧の政治家である。その一方、「EUの共同防衛政策の重要性」を訴えている。

メルケル首相とV4諸国首脳は、「EUの域内外の安全問題は、来月16日にスロバキアの首都ブラチスラヴァで開催予定のEU非公式首脳会談の重要テーマ」という点で一致したという。特に、トルコが10月、EUとの間で合意した難民政策を解消した場合、再び大量の難民がバルカン・ルートで欧州に殺到するケ―スが十分考えられるからだ。

ワルシャワからの情報によれば、難民政策、安保問題以外では、英国のEU離脱後の加盟国間の結束問題が話し合われた。ホスト役のシドゥウォ首相は、「英国の離脱後、EUは安保と経済政策の両分野で連帯が願われる。EUは問題の解決でなければならない。EUが問題となってはならない。そのためにもEUの改革は急務だ」と述べている。

メルケル首相は、「非公式首脳会談がブリュッセルではなく、ブラチスラヴァで開催されることは大切だ。国民がEUを肌で感じることができる機会となるからだ」と述べ、V4首脳に連帯と結束を訴えている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年8月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。