ビールの売り子は1杯を40秒で売る。その驚愕テク!

野球場でビールの売り子と談笑する原佳弘。

プロ野球のペナントレースもいよいよ終盤の9月に突入しました。セリーグは広島が優勝しましたが、パリーグの行方はもちろん、クライマックスシリーズ進出を掛けた争いや個人タイトルの行方にも注目が集まります。そして、球場を彩るビールの売り子の仕事もこの時期に最盛期を迎えます。

皆さまは、AKBの総選挙をご覧になりましたか。今年も大変盛り上がったようです。立候補者80名のなかから、フアンが投票することで選抜メンバーが選ばれる仕組みです。

実は、ビールの売り子にも似たような側面があります。これは、フアンから応援してもらっている売り子がトップになれるという点です。

原 佳弘(以下、原)は企業の人材育成や研修を提供するBrew(株)を経営しています。現在は、野球場のトップ売り子のエッセンスから、販売員トレーニングのコンテンツなどを開発し好評を博しているそうです。今回は、ビールの売り子の実像について伺います。

■トップの売り子は、常連客比率が4割以上

ビールの売り子は、1日100杯前後を平均的に売り上げています。トップクラスになると1日の販売は300杯になるそうです。

日本プロ野球機構(NPB)によれば昨年の1試合平均時間は3時間17分(197分)です。197分で100杯ですから、1杯辺りの販売時間は1分58秒(約2分)程度になります。トップクラスは300杯ですから、1杯辺りの販売時間は39.4秒(約40秒)になります。

「しかも、単に注文を受けてビールを注いで完了というわけではありません。代金の授受や、お客様とのエッジの効いた会話も必要とされます。球場内を歩き回る時間なども含めての時間になりますから、このような短いスパンで連続して販売していくスキルは至難の業とも言えるでしょう。」(原)

そして、原は「効率的に売れていく販売」が必要だと述べています。常連客の比率が高ければ効率的に売れていきます。そして、常連客の比率こそが、トップクラスと平均的な売り子との違いだと述べています。

「平均的な売り子で販売数に占める常連客比率は2割程度です。トップクラスであれば常連客比率が4割を超して来ます。新人には馴染みの常連客は居ません。新規で開拓していかなければいけません。」(原)

「常連客」の定義とはなんでしょうか。原は「よく野球場に行き且つ自分をご贔屓にしていただける常連客」と定義しています。そして、どの売り子も、「常連客に支えられている」と異口同音に語るそうです。

そして、常連客に接する売り子の様子を見ればわかるそうです。まず最初の1杯を買っていただき、自分が居ることをアピールします。そして、ビールが無くなるタイミングを見計らって、さり気なく常連客のもとに向かうのです。

試合が盛り上がったら、きっかけを逃さずに話しかけます。その際には応援仲間や近くの方にも買ってもらえるように働きかけます。その動きにはソツがありません。

■「あなた」から買いたいというロジック

それでは、常連客が売り子を指名する理由は何なのでしょうか。原の調査では、ある傾向が明らかになったそうです。

「ひとつは、売り子の姿勢への共感です。『一生懸命やっているから、なんだか応援したくなるんだよね』『重い樽を背負って階段昇り降りをしている姿を見ると、買ってあげようと思うんだよ』。これは頑張りに共感している姿です。」(原)

さらに、もう1つ意外な理由があるそうです。

「球場によっては、売上上位の売り子が分かるところがあります。『腕章などに付いている売り上げランキングの数字を見て、もっと上位へ!と手助けしたくなるんだよね』。こうなると、もはや応援団に近いノリですね。」(原)

フアンには「あの売り子を応援したい」「あの売り子から買いたい」という心理が働きます。これは、例外なく、他の業種でも起こっていることです。

アパレル販売、宝飾品、飲食店、etc。これらの業種でも「あなたから買いたい」という気持ちが働いて購買しているケースは少なくありません。商品は一緒でも、「あの人だから」買っています。

「あなたから買いたい」という技術は、モノが売れない時代に、欠かせない販売技術ともいえます。そんな思いをはせながら、スタジアムに行くと新しい発見があるかも知れません。行く機会があったら、ぜひ彼女たちの仕事ぶりに注目してもらえればと思います。

尾藤克之
コラムニスト

PS

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