日銀総括への期待と不安

岡本 裕明

来週20日、21日に日銀は定例の政策決定会合を実施しますが、今回は通常時に比べて注目度が高くなっています。それは一つに黒田日銀政策の総括をすること、もう一つは一部で期待感の高まる更なる金融緩和を実施するかであります。

特に日銀総括については経済ニュースや専門家からコメントが出始めているのみならず、14日の日経一面トップで「日銀、マイナス金利を軸に 総括検証、緩和強化を視野 国債購入、副作用に配慮」と大々的に報じたため、その日の株式市場では銀行株が売られる結果となりました。その日銀総括、発表まで数日となりましたが、私なりの期待と不安を述べてみたいと思います。

個人的にはマイナス金利の検証がキーであると思うのですが、先週あたりの黒田総裁、及び中曽副総裁の会見ではマイナス金利について(効果)マイナス(コスト)が依然プラス水準であるとお考えになっている点が気になっています。本当にそのように総括できるのでしょうか?

例えば、ブルームバーグにテーラールール考案者のジョン テーラー スタンフォード大学教授の記事が出ておりますが、氏は「マイナス金利が効用よりも弊害が大きい可能性がある」とし、「逆効果の可能性があることは疑問の余地がない」とまで言い切っています。

記事では更に「先進国の問題は需要不足というより生産性伸び悩みだとテーラー教授は指摘。政策の焦点が政府に移ることの重要性を指摘し、日本でも欧州でも米国でも、金融以外の『政策がこれまでよりも大きな役割を果たす必要がある』」としています。

日本のマイナス金利政策の場合、多分、意図に反して超長期国債まで極度な金利低下を招きました。これが銀行経営に直撃し、利ザヤが減少するとともに生保や地銀など国債運用を利益の源としていたところにも激震が走ったのであります。

今回、技術的誘導で超長期金利を高めにして短中期を低めにするオペレーションをすることで銀行からの圧力をかわす努力をするのだろうと思います。

日銀はインフレ率を2%にするために金融緩和をしたいと考えているのですが、私が感じるのは金利が一定水準を下回って更に下げるとインフレ率が下がる逆効果が発生するのではないかと思っています。

産業革命的な画期的新製品が出ていない状況下、需要喚起も難しい中での金利低下は企業行動と消費者行動にはどう影響するでしょうか?

大多数の売り手は金利低下に伴うコスト減で安売り競争に拍車をかけ、市場シェアを確保する戦略をとると思います。なぜでしょうか?それは売り手も買い手もそこまで賢いわけではなく、売り上げを上げる(もっと欲しくなる)には安売りが一番だという絶対的バイブルが確立しているからです。

では住宅のケースはどうだったのか、と言えば不動産ローンは下がったけれど住宅価格はこの数年ずっと上がり続けサラリーマンに絶対額で届かないところになってしまいました。健全なインフレ時代であれば物価上昇に伴い賃金上昇が付随し、消費がそれを追いかける競争状態が生まれます。

ところが現在の消費者は競争する気が端からないため、価格だけが独り歩きし、迷走する「どんづまり状態」であって、日銀が考えるような絵に描いた経済理論が通用しないのではないでしょうか?それがマクドナルドやユニクロの価格戦略の失敗であったと私は総括します。

更に、本来日銀を援護射撃するはずの政府もシェアの時代を全面的に後押しし、中古住宅の再生を政策として考慮するなど消費者が最終的に消費額を抑えることができるよう推し進める二律背反が起きています。

これは消費者向けにモノを売って経営している私の実感でもあります。そしてそれは日本のみならずカナダでも同じだということです。キャッチアップできる人と出来ない人の格差が明白についてきたのです。これが成熟化する先進国が低インフレで苦しむ一つの断面ではないでしょうか?

個人的には一時的には劇薬だとは思いますが、金利を徐々に普通の水準に戻すことだろうと思います。中央銀行による金利操作はインフレ率修正への貢献度は先進国ではより薄く、企業救済的な意味合いがもっと強い気がします。これは中国でも話題になっているゾンビ企業がより増殖する副作用があり、価格低下を更に推し進めることになるベクトルも当然発生します。

感覚的ですが、では普通の金利水準とはどのぐらいか、といえば1-2%が政策金利として、また経済が健全性を保てるいいところではないでしょうか?労働専門のイエレン議長がなぜ、マイナス金利を良しとしないのか、これは労働市場で完全雇用は労働の質を低下させ、生産性が下がるという確固たる経済理論が存在しているからです。同じことは金利低下にも当てはまるということではないでしょうか?

来週の総括が楽しみであります。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月15日付より