高知東生さんは回復できる気がする理由 --- 田中 紀子

寄稿

昨日、覚醒剤を使用、所持したとして覚醒剤取締法違反などの罪に問われた、
高知東生被告の判決公判が行われました。結果は、懲役2年、執行猶予4年が言い渡されました。

しかし、この高知さんって人は、類まれなる正直さを持っているよなぁ・・・
と、今回の一連の報道を見ていて思いました。
なんとなく「この人なら回復できそうな気がする」と思います。

というのもですね、現在薬物の通院治療を受けているそうで、その効果が大きいのかもしれませんが、裁判中に10代からの薬物使用を告白したのには、まず驚きました。

だって、わざわざ自分が不利になるような証言を、裁判ですることもないじゃないですか。
黙っていれば、わからないことなんですから。

でもですね、回復を目指そう!と決意し、そのプログラムにのったなら、有利不利といった「人がどう評価するか?」ということは問題じゃなくなるんですよね。

大切なのは
「自分で自分を嫌いにならないかどうか?」
「自分が自分を見捨てたくなるような行動はしない」
ということなんですよね。

だから高知さんは、自分の卑怯さで自分を嫌いにならないように、全てを告白したんだと思います。

それとですね、高知さんは初公判で薬物を断ち切れるか聞かれて「正直、不安です」と答えています。
この言葉は、支援者からみたら、大きな希望。これを聞いただけでも「この人、回復できるかも!」と思いますね。

「もう絶対やりません。大丈夫です、信じて下さい!」と強い決意を示す人は、大抵またやります。
依存症と言う病気を、意思の力で克服できると、なめてかかっている訳ですから。

よく例え話で話すのですが、もし糖尿病だったら「意志の力で血糖値を下げてみせる!」なんてできるでしょうか?まず無理ですよね。食事療法や、薬でコントロールしますよね。

依存症も同じです。
意志の力ではなく、回復プログラムで回復します。

そして、この依存症の回復プログラムで、最も大切なことは「正直さ」です。

では、人間最も不正直になることは何でしょうか?
それは例えば誰かを騙そうと「嘘をつく」というようなことではありません。
答えは「誰かの期待に応えようとすること」です。

だから私たちは「正直さ」の反対語を「嘘」とは考えません。
「正直さ」の反対は「不正直」と言っています。

「誰かの期待に応えようと、無理して不正直になる」
この積み重ねは、依存症の道へまっしぐらとなります。
何故なら人の期待に応えようとする人生は、辛く、むなしく、苦しく、圧力がかかり、何かを使って全てを忘れたくなるような人生だからです。

ですから、裁判長。
裁判長が判決文でおっしゃった、
「これからは支援者の期待を裏切らないように頑張ってください」
というお言葉は、真に更生を願うのであれば逆効果です。

どうせお言葉をかけて頂くのなら、
「これからは自分を裏切らないように、周りの期待に応えようと無理をしないで下さい」
とおっしゃって頂きたかったです。

ついでに申し上げるなら、
「あなた自身がきれいな体になることが一番だと思います」
と言われると、まるで依存症者の身体が「汚い」かのようで、誤解や偏見を増長します。
ここは「あなた自身が健康な体になることが一番だと思います」と正確に発して欲しかったです。

依存症の裁判で、毎回思うことは、裁判官は、浪花節や道徳観で人を裁くのではなく、ご自身がまず正しい知識を身に付け、言葉遣いには充分な配慮をして欲しいと思います。

高知さん、これからは誰かの期待に応えるのではなく、自分で自分に「回復できるんだ!」と期待してあげて下さい。高知さんの正直さがあれば、回復は充分可能だと思います。私たち皆でエールを送り、高知さんの回復をお祈り致しております。


編集部より:この記事は、一般社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2016年9月16日の記事を転載しました(画像は高知東生氏ツイッターより引用。見出しの一部をアゴラ編集部で改稿)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。