まだある豊洲の頭痛の種

岡本 裕明

豊洲といえば盛り土問題で大賑わいでありますが、私が以前から聞いていたのはそんなことではなく、使い勝手の問題であります。そして当初予定通りならば引っ越し準備で大忙しとなるべく豊洲の実態がほとんど公開されておらず、ごく一部の業者にチラ見させる程度のようです。今回、そのごく一部の業者の方とゆっくり話を聞くことができましたのでご紹介します。

仲卸店舗の最小間口は壁芯1.5M程度のスペース。しかも築地の場合には隣との壁がなかったのですが、豊洲は安全対策と称して壁で仕切られるため実質1.4M幅。そこには水道が一つ。多くの業者はこのスペースを見て固まったと聞いています。私も写真を拝見しましたが「これで千数百万円の権利金払って家賃もとるのかね?」が思わずこぼれた言葉です。狭くなって使いにくくなって、高くなる、これがまず第一。

多くの買出人は4Fの駐車場に車を停めます。その駐車場は業者ごとに割り付けされるだけではなく、時間制。時間内に買い付けをして荷物を積んでさっさと出て行かないと次の時間帯の車が入ってきます。しかし、広い市場で荷が意図したとおりに積み込まれるとは限りません。時間超過して前の車がまだ止まっていた場合、次の業者は何処で待つのでしょうか?待機場所はないようです。

下のフロアにある大型トラック発着場はどうかといえばトラックをバックで止めて荷台の後ろから荷を下ろす方式。今のトラックは荷台の横からさっさと荷下ろしするウィング車が主流です。ところが豊洲ではその設計前提がありません。つまり時間がかかる前近代的荷下ろしをしなくていけません。

次いでの問題は茶屋出し。築地では買出業者が商品を茶屋と呼ばれる人に廻しそこに自分の店の商品が全て集まる方式となっています。ですので買出人は買い付けした際、何番の茶屋に廻してくれといえば商品がそこに全部集まり、茶屋の人はそれが盗まれたりほかの業者のものと混じらないよう管理し車に運ぶ手伝いをしてくれます。これが豊洲では一切ダメで茶屋はなくなるとのこと。ではどうするのかといえば4Fの車に直接積み込むらしく運転してきた買出人はトラックなりバンなりのカギを解除しておかないと荷物を積んでもらえないということになります。ちなみに盗難対策はないそうです。

豊洲では床に水を流せません。築地ではろ過海水などで床を洗うのですが、これでハエが来ないという効果があるそうです。(東京都のウェブサイトではろ過海水による衛生管理の科学的根拠は薄いとしていますがハエのことは触れていません。)マグロなどは脂が多く、きちんと床を洗わないとツルツルになってしまうそうですが、さてどうするのでしょうか?

このような使い勝手の悪さはまだまだいくらでもあるようなのですが、なぜ、このようなものを大金をかけて作ってしまったのか、全てはここに帰着します。

私はなぜ、東京都が自分で何から何まで仕切ろうとしたのか、これがそもそもの間違いではないかと思っています。北米風に発想するならば東京都は建物の所有者としては君臨しても運営権は民間に任せるべきでありました。そして設計の段階から運営業者が細かいところまで指示して作りこむ体制をとるべきでありました。

通常、民間業者に建築費のコスト低減へのボーナス条項を付けておくとびっくりするほど効率的なものを作ることができます。安全、環境的問題を生じさせないかは運営者、設計者、大家の東京都が検証するというスタイルが一番うまくいったはずです。

では、なぜこれができなかったか、といえば地方公営企業として全部東京都でやらざるを得ず、任せられないという名目が生まれ、結果として利権の温床となりかねないのであります。例えば豊洲への引っ越しは全て某有名引っ越し業者に一本化されています。他の引っ越し屋は入れません。なぜ、ここまで背景だけが意思統一されているのか、ここに疑問が入らないわけがありません。

この辺りをほじくると何か出てくるのかもしれないし、何もないかもしれません。しかし、そういう疑念を抱かせるような流れであったことは否定しようもない事実です。小池体制はこの透明化とともに官民のパートナーシップ制度を取り入れ、役人が机上の理論で話を進めていく流れをとめるべきでしょう。

個人的には一部の空港運営が民営化されているように新市場は早急に民営化すべきだと思います。市場の運営は役所仕事のレベルではないし、役所が本来やるべき仕事はほかにあると思います。

あまり表には出ていないが、と前置きしたうえでその方から「豊洲は使えないので流通センターあたりに売却して新しく作りなおすという意見もあるようだ」と聞いたときはぞっとしました。まさかそんなことにはならないと思いますが、この豊洲問題、第二弾、第三弾と延々と続きが出てくることは確かだと思います。

この話を聞いていて世界の東京、世界の魚市場がこんな次元の話をしているのかと思うと情けなくなってしまいます。この伺った話が嘘か本当かというよりそこで仕事をする人間に不信感を抱かせるようなコミュニケーション不足、情報開示不足、そして移転賛成派だけのボイスを反映したこの設計施工そのものの問題であろうかと思います。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月20日付より

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。