オーベルジュ「評論家」にはなれても「経営者」にはなれない

旅行に行ったり、食事に出かける時は出来るだけ行ったことの無いお店に行くようにしています。気に入ったお店は、「資産デザイン研究所メール」の「グルメ設計塾」でご紹介したり、美味しかったワインをSHINOBY`S BAR 銀座に導入したりするためです。

今年6月にオープンしたというオーベルジュに出かけてきました。お料理(写真)のクオリティも高く、オーシャンビューでビューバスの付いた広いお部屋が気持ち良かったのですが、旅行に行ってもリラックスモードではなく、お仕事モードに入ってしまうのが悪い癖です。

どの宿でもチェックインする時に、全部で何部屋あって今日泊まっているのは何組なのかを従業員に聞いてみます。そこから稼働率を推定して年商はどのくらいかを推計します。例えば、10部屋で平日なのに6室宿泊であれば、週末は満室になる可能性もあり、稼働率は固めに見ても70%。1部屋8万円であれば、56万円で365日だからざっくり年間2億円の売上だと計算してしまいます。

今度は、そこから、従業員の数から割り出した人件費、食材の原価、清掃・備品などのコスト、建物の減価償却、広告宣伝費・・・と頭の中で計算していく。オーベルジュ経営とは極めて難しいビジネスであることがわかります。

たくさんの宿泊施設を泊まり歩いていると、1泊しただけでその施設の改善点が見えてきます。小規模で経営されている宿は、オーナーの趣味嗜好が反映されていますが、それが良い場合と悪い場合があるのです。

例えば、男性目線で作られた部屋は、ゴミ箱が少ない、パウダールームが落ち着かない、アメニティのクオリティが低いといった問題があることが多いのです。お酒が好きなオーナーの宿はワインリストのセンスが良く、歴史があるオーベルジュは料理が世の中の変化に追いついていない場合があります。

高額な料金を支払って特別な時間を求めてやってくる宿泊客を満足させるには、すべての要素を高いレベルで維持しなければならないので簡単ではありません。そして次々に新しい施設がオープンして競合が増えていきます。

多くのオーベルジュでは、最近部屋にアンケート用紙を置いています。感想や意見を書けるようになっているのですが、感じたことをすべて書くのはどうしても躊躇してしまいます。お客様の本音を知り、それを運営にフィードバックさせていくのも簡単ではないのです。

飲食店が数年単位で経営を考えるビジネスだとすれば、オーベルジュは10年単位で実績を積み上げていく、さらに息の長いビジネスです。せっかちな自分は、オーベルジュ「評論家」にはなれても「経営者」にはなれないと再認識しました。

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※内藤忍、及び株式会社資産デザイン研究所をはじめとする関連会社は、資産配分などの投資アドバイスは行いますが、金融商品の個別銘柄の勧誘・推奨などの投資助言行為は一切行っておりません。また投資の最終判断はご自身でお願いいたします。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2016年9月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。