【映画評】何者

渡 まち子

就活の情報交換のため集まった、大学生の拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良の5人の22歳。演劇をやっていた拓人は冷静に分析するのが得意、バンドをやっていた天真爛漫な光太郎、地味だが実直な瑞月、海外ボランティア経験のある理香は意識高い系で、理香の同棲相手の隆良は社会の決めたルールには乗らないと就活を拒否している。それぞれが面接やSNSで発する言葉の奥に本心を隠しながら、共に励まし合っていた。だが、やがて内定をもらうものが現れると、抑えていた嫉妬や本音が噴出してくる…。

就職活動を通して5人の若者が自分自身をみつめていく「何者」。原作は直木賞を受賞した朝井リョウのベストセラー小説だ。言うまでもないが、就活のヒントや現実の就活をリアルに描く物語ではない。5人の登場人物は、ツイッターというごく短い言葉を発するSNSを通すことで、本音と建て前を使い分けながら、互いの距離感をはかっている。大学生で演劇サークルに所属していた拓人を中心に物語が展開するが、他人をいつも冷静に見ているはずの彼の分析や批判には、自分がどう見られたいかという願望が見え隠れする。

では拓人自身の姿とは?面接で自分を表現する就活も、舞台の上で自分を表現する演劇も、“演じる”という共通点がある。どちらも、自分自身のことがわからないうちは表現することは不可能なのだ。天真爛漫な光太郎が「どうして拓人が内定をもらえないのか、本当にわからない」とつぶやくが、その答えを冷徹につきつけるのが、意識高い系の理香。これがこの就活心理ドラマの、一種のどんでん返しとなっている。スマホの小さな画面に向かって、わずか140文字で書く言葉に精一杯の思いを込める若者たちは、人と面と向かって話すことをどこかで恐れているのだろうか。それでもSNSの会話もまた彼らのリアルのひとつなのだ。

佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生、山田孝之ら、若手俳優のアンサンブルがうまく響き合っている。それにしても大学生活や社会人1年生ではなく、就活というごく短い間の青春模様に、人間ドラマのエッセンスを見出した原作者のまなざしの鋭さに感嘆する。
【75点】
(原題「何者」)
(日本/三浦大輔監督/佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、他)
(リアル度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年10月16日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式ツイッターより引用)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。