豊洲問題。「地下水管理」は絵に描いた餅となるか?

柳ヶ瀬 裕文

こんばんは。東京都議会議員(大田区選出)のやながせ裕文です。

今日は豊洲新市場の問題について。

10月17日から「地下水管理システム」が本格稼動した。豊洲の土壌汚染対策では、建物下に盛り土がされなかったことが明らかとなっているが、さらに重要な汚染対策がこの「地下水管理システム」だ。

東京ガスの操業によって汚染された土壌は、掘削除去したとされているが、全ての汚染物質を除去することは不可能だ。残存する汚染物質は、地下水によって拡散していく。これを防ぐために必要なのが地下水管理で、水位をA.P+1.8mに維持し、できるだけ地表から遠ざけようというのが、専門家会議の提言であった。

東京都が作成した地下水管理システムの「条件設定理由書」には、このシステムの意義が記されている。

万が一、当該システムが機能しなければ、汚染地下水の上昇や地震時の液状化に伴い、汚染が地表面への噴出すること等が懸念され、市場の安全・安心が確保できない。

まさに、汚染防御の中核をなすシステムだとわかる。

しかし、一方で約40haにも及ぶ広大な土地の、複雑に入り組んだ地下水を管理するのは簡単ではない。10月5日都議会本会議での私の質問にこう答えている。

(質問)これだけの大規模な地下水の浄化管理をした事例、実績は?

(答弁)これと同等な規模の事例は把握しておりません。

先ほどの条件設定理由書にも「当該システムは、国内最大級の過去に例のない規模」と記されている。これはよく言えば「最先端」となり、悪く言えば「実績なし」ということになる。

では、この「最先端」システムが本格稼動して、水位はどう変化したのか?

地下水位測定結果(平成28年10月17日~28日)

地下水位測定結果(平成28年10月3日~14日)

いつ稼動を開始したのか?という問題があるが、24時間の自動運転を開始したのは10月13日夜とのことである。それ以前にも、試運転で稼動はしている。そこを考慮すると、水位は低下しているところもあれば、横ばいのところもある。といったところか。

これが地下水の難しいところ。「プール」であれば、水をポンプで汲み上げれば水位が下がるのは当たり前。だが豊洲の地下水は場所によって高低差が大きく、当たり前だが土の中を動いているものだからやっかいだ。ある場所で揚水しても、観測井戸の水位に与える影響は均一にならない。

だから地下水管理システムがうまく機能しているかどうかは、揚水・排水量の検証もあわせて必要となる。以下は排水能力についての答弁。

(質問)AP1.8mを維持する排水が可能であるという根拠は?

(答弁)3街区の合計で一日当たり600㎥の排水能力を有している。

5・6・7街区それぞれ200㎥/日の排水能力となっている。これは残念ながら、広大な敷地に対してかなり少ない量だ。正確な計算は困難だが、AP1.8mまで水位を下げるのに相当な期間(数ヶ月?)を要するだろう。ただし、それはシステムが100%稼動した場合。現在の排水量をみてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

放流量=排水量がゼロや一桁の日もあるが、これは検査や調整のため運転を停止しているとの説明を受けた。

最大排水量200㎥に対して、本格稼動後も約50%程度の処理しかできていないことがわかる。現状の処理量では、AP1.8mまで低下させるのに途方もない時間を必要とする。

地下水が強アルカリのため、中和作業はしているが、排水能力に影響は与えていないとのこと。排水量が一定しないことをみても、揚水に課題があるということになるだろう。

技術会議の資料を見ると、揚水井戸が目詰まりを起こして機能が低下する可能性について記されている。これらの可能性も含めて地下水管理システムの稼動状況を検証していきたい。今後、地下ピットの水位などのデータが公開になれば、問題点が明らかになるはずだ。

でも、そもそも、地下水管理は「きれいにした盛り土」を地下水の上昇によって再汚染しないことも目的としてあったはずだ。都は工事の工程を理由にしているが、これは本末が転倒している。盛り土がされなかったことを含めて、当初の専門家会議の提言が崩壊していることは明らかだ。

本会議でも述べたが、これまでの土壌汚染対策の実効性と効果を検証することは重要だ。

同時に、私たちが目指してきた土壌汚染対策の到達点が本当に現実的なものだったのかどうか、ここを省みる必要がある。安心を目指す余りに実現不可能な目標となっているのではないか、過剰防御となっていることはないか、ここもあわせて検証しなければならない。

私は現時点において、豊洲新市場に移転するしかないと考えている。市場会計は莫大な借金を背負っており、豊洲を放棄して新たな土地を求めることは不可能だ。築地の施設設備の老朽化は、一刻も早い対策を必要としている。

次のステップに進むためには、豊洲の問題点を出し切り、徹底して解明する必要がある。

「東京都が安全だと言っているから安全だ」「様子をみよう」では役割を果たせない。その姿勢が「盛り土なし」を見抜けず、問題を大きくしたことを自省する。今後も予断なく「地下水管理」の実効性を検証していく。


編集部より:この記事は、東京都議会議員・柳ヶ瀬裕文氏のオフィシャルブログ 2016年10月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、やながせ裕文オフィシャルブログ「日々是決戦」をご覧ください。