バチカン教理省の「火葬の教え」公表

今年も「死者の日」がくる。欧州のローマ・カトリック教会では来月1日は「万聖節」(Allerheiligen)」、2日は「死者の日」(Allerseelen)だ。教会では死者を祭り、信者たちは花屋で花を買って、亡くなった親族の墓に参る。日本のお盆の墓参りと考えて頂いてもいいだろう。

▲ウィーン市の中央墓地(World Musicfan Cemetery co.LTDの公式サイトから)

喧騒な社会で生きている現代人も年に1日、我々の先祖、親族のことを想起し、感謝したいものだ。ハムレットではないが、死んだ世界から戻ってきた者はいないのだ。それだけに、地上にまだ生きている人間が死者に対して思いを寄せる以外、死者も浮かばれないわけだ。

「死者の日」を前に、バチカン教理省が25日、「Ad resurgendum cum Christo」 (Zur Auferstehung mit Christus)と呼ばれる文書を公表し、火葬した場合、その遺灰(散骨)を散布せず、聖なる墓地、教会内などで保存すべきだ、といった新「火葬の教え」を明らかにした。
信者たちの間で死者を埋葬ではなく、火葬するケースが増えてきたため、バチカン側は「遺灰の散布」を禁じるなど「火葬の教え」を改めて公表する必要性が出てきたからだ。

このコラム欄でも一度、紹介したが、欧州では死者を埋葬するよりも火葬とするケースが増加した。欧州では過去、埋葬が中心だった。
ローマ・カトリック教会の教えでは、基本的には死者は埋葬される。神が土から人間を創ったので、死後は再び土にかえるといった考えがその基本にあるからだ。旧約聖書でも「火葬は死者に対する重い侮辱」と記述されている。そのうえ、火葬は「イエスの復活と救済を否定する」という意味に受け取られたからだ。フランク王国のカール大帝は785年、火葬を異教信仰の罪として罰する通達を出している。

しかし、先述したように、火葬する信者たちが増えてきている。その理由は、埋葬の場所の物理的制限だけではない。衛生上も埋葬より火葬がいいという専門家たちの意見が聞かれるからだ。いずれにしても、公共墓地に家族を埋葬するこれまでの葬儀文化はもはや時代に合致しなくなってきた。例えば、欧州では平均、約半分は火葬する、というデータもあるほどだ。オーストリアの場合、火葬件数は全体の約33%で、その割合は年々上昇している。

ドイツのプロテスタント系地域やスイスの改革派教会圏では1877年以来、火葬は認められ、カトリック教会でも1963年7月から信者の火葬を認めている。ただし、火葬後の遺灰を地に散布することは認められていないが、火葬した遺族の遺灰を骨壺に入れて埋葬する家族、死者の願いを受けて遺灰を森林に撒くというケースも出てきた。自然に帰れ、といった風潮が強まってきたからだ。遺灰を自宅の庭、森や山だけではなく、海に散布するケースが出てきた。オーストリアでは遺灰をドナウ川に散布する親族も見られるという。

ゲルハルト・ルードビッヒ・ミュラー教理省長官は新「火葬の教え」の中で、「埋葬がベスト」という教会の立場を強調する一方、火葬の場合、その遺灰(散骨)の保管を強調し、「遺灰の散布は認められない」という教会の教えを改めて指摘している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年10月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。