「冬時間」の到来と微かな憂鬱

欧州で30日、夏時間(サマー・タイム)は終わり、冬時間(標準時間)に入った。同日午前3時は1時間戻り、午前2時になった。睡眠不足の人にとって1時間、長く眠れる。今年はここ数年の冬とは違い、長い、厳しい、本格的な冬の訪れが予想されている。

▲クリスマス・シーズン幕開けを楽しむウィーン市民(2013年11月16日、撮影)

夏時間の場合、一時間短縮されるので「損した」といった思いが出てくるが、これから日々、明るくなると考えれば希望を感じるから、「1時間損した」と文句を言い続けることはない。

音楽の都ウィーン市で先週、朝は靄がかかり、微かに雨が降る日が続いた。ガラス窓は露で濡れる。日中は太陽は見られず、一日中、曇っていた。

このような時期になると、オーストリア人は憂鬱になる。気分がさえない。本格的な鬱に陥る人も出てくる。ウィーン市の欧州最大総合病院、AKH病院では「秋冬の鬱」(Herbst-Winter Depression)に悩む市民を受け入れる緊急受付窓口を開いているほどだ。

多くの場合は日光不足が原因だ。だから光治療を受ける。一日30分ほどランプの光を受けると、軽い鬱状況は回復する。重い鬱の患者には医者は薬を出す。オーストリアでは鬱を国民病(Volkskrankheit)と呼ぶ。

テーマに戻る。時間は極めて相対的だ。客観的な時間と主観的な時間がある。嬉しい時はあっという間に過ぎてしまうが、苦しい時は時間は案外スローテンポだ。多くの人は体験済みだろう。聖書でも「永遠は瞬間であり、瞬間は永遠だ」といった内容が記述されている。ビックバーン後、宇宙は膨張してきた。われわれが今、目撃しているものは創造の出発時のものといわれる。

最近、朝早起きの著名人や政治家の話をよく聞く。ノーベル文学賞を今年も逃した村上春樹氏は毎朝5時には起床し、仕事を始めるか、ランニングするという日課を堅持している。その日課のリズムが狂うと、書くこともできなくなるという。

独週刊誌シュピーゲルによると、フランソワ・オランド仏大統領(62)は村上春樹氏(67)より1時間、早起きで毎朝4時起床だ。その後、スマートフォンで昨日世界で起きたニュースをチェックするという。その仕事が終わると、オランド大統領は午前6時ごろ、またベットに戻る。

同大統領の伝記が最近出版されたが、「フランス人は眠れない人が多いので、睡眠薬を飲む人が多いが、大統領は薬の助けはなくても夜10時半にはベットに入る」という。

当方は11月生まれのせいか、これまで冬が好きだった。厚いマンテルに身を包み、町の小さな喫茶店で一杯のコーヒーを飲みながら、新聞を読む時が至福の時間だった。しかし、年をとるにつれて、冬が少々、重荷になってきた。同時に、町でコーヒーを飲む習慣も数年前から止めた。朝食時のコーヒー一杯と、昼食後の一杯のコーヒーを自宅で楽しむだけだ。若い時、ロシア風ラム酒入りティ―に凝ったことがあったが、今はそのような冒険はしない。

冬時間に入った日、当方は「次の夏時間はいつから始まるのか」と考えている有様だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年10月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。