欧州極右派とトランプ氏の「関係」

長谷川 良

欧州の極右派政治家と呼ばれる政治家はドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利をあたかも自身の勝利のように歓迎している。オーストリア代表紙「プレッセ」は11日、「フランスの極右政党『国民戦線』のマリーヌ・ル・ペン党首は、『今日は米国で、明日はフランスだ』と述べ、来年実施予定の大統領選での政権掌握への決意を固めている。

オランダの極右政党『自由党』のヘルト・ウィルダース党首は、『トランプ氏の行進は決して孤立した現象ではない。欧州でも多くの国民が真の政治転換を願っている』とツイッターで述べ、英国の右派政党『独立党』の欧州議会議員ナイジェル・ファラージ氏は、『2番目の革命が生じた』と英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票の勝利とトランプ氏の当選を重ね合わせている」と報じている。

▲トランプ氏の勝利の波及を恐れるバン・デ・ベレン氏(オーストリア「緑の党」の公式サイトから)

当方が住むオーストリアでも極右政党「自由党」のシュトラーヒェ党首はツイッターで、「左翼や特権を享受するエスタブリッシュメントは今回、有権者によって制裁を受けた。わが国でも米国と同様、メディアは最初からトランプ氏を批判し、ヒラリー・クリントン氏を支援し続けてきたが、彼らも有権者に制裁を受けた」と強調している。

欧州の極右派政治家とトランプ次期大統領との間には確かに共通点がある。トランプ氏は「アメリカ・ファースト」を標榜する。同じように、例えば、オーストリアの「自由党」も「オーストリア・ファースト」を叫んでいる。両者は、EU・米国間の包括的貿易投資協定(TTIP)に反対し、難民の受け入れに消極的であり、イスラム教徒を含む外国人への排斥傾向が強い、といった具合だ。その米国でトランプ氏がクリントン氏を破り、勝利した。欧州の極右派政治家たちが「次は自分の番だ」と意気が上がっても不思議ではない。

世界を驚かせた「トランプ勝利」の風が欧州の政界にまで及ぶかを占る絶好のイベントが来月4日にある。オーストリア大統領選だ。野党「緑の党」元党首のアレキサンダー・バン・デ・ベレン氏(72)と、極右政党「自由党」議員で国民議会第3議長を務めるノルベルト・ホーファー氏(45)の2人の間で行われる。興味深い点は、ホーファー氏の対抗候補者バン・デ・ベレン氏がトランプ氏の勝利に危機感を高めていることだ。

バン・デ・ベレン氏は、「トランプ氏の勝利を尊重するが、米大統領選の批判・中傷合戦は到底、受け入れられない。わが国が欧州で先駆けて極右派政党出身の大統領を選出するといった不名誉なことが絶対生じてはならない」と述べ、ホーファー氏がトランプ氏の勝利の勢いに乗って当選しないように国民に警告を呼びかけている。

一方、ホーファー氏は、「トランプ氏の勝利を驚く人を見て、驚かざるを得ない。米大統領選は民主的に行われ、トランプ氏を選出したのだ。その結果を尊重するのが民主主義国家であり、法治国家の基本ではないか」と強調し、当選したトランプ氏をこき落とすバン・デ・ベレン氏を批判し、「バン・デ・ベレン氏はわが国と米国との関係を険悪化させている」と述べている。

トランプ氏の衝撃が欧州の政界にどのような影響を与えるか、オーストリア大統領選はそれを知る格好のテスト・ケースだ。リベラル派、左派知識人らが結束を固め、極右派政党の躍進を阻止するか、ホーファー氏が‘欧州のトランプ‘となるか、あと3週間余りでその答えが出る。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年11月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。