ポリコレって何?

池田 信夫

アメリカ大統領にドナルド・トランプさんが当選して、世界が驚きました。見るからに悪役レスラーみたいなトランプさんがアメリカ人の支持を受けたのは、ヒラリー・クリントンさんに代表されるポリコレにいやけがさした人が投票したためといわれてますが、ポリコレって何でしょうか?

これはpolitically correctの略で、そのまま訳すと「政治的に正しい」。その反対にトランプさんみたいに差別用語を使ったりエッチなことをいったりするのをpolitically incorrectといいますが、よい子のみなさんにはわからないでしょう。

これはアメリカ特有のことばで、もともとは1960年代に公民権運動で黒人差別をやめようということで始まったものです。たとえば黒人を「ニグロ」とか「ブラック」とか呼ぶのも今は禁止で、「アフリカ系アメリカ人」と呼ばないといけません。ほとんどの黒人はアフリカなんか行ったこともないので、これは変ですね。

そのうち身体障害者の差別もやめようということで、blind(盲目)はvisually impaired、deaf(口がきけない)はaurally challengedなどといいかえるようになりました。これは日本でも「めくら」や「おし」が使えなくなったのと同じです。

さらに人間をmanと呼ぶのは「男だけが人間だ」という女性蔑視だということになって、policeman(警察官)はpolice officerになり、chairman(議長)はchair(椅子)になりました。日本人が国際会議に行くと、「スミスさんがこの会議の椅子です」などといわれてびっくりします。

日本でも、ちょっと前に言葉狩りが流行しました。今では「めくら判」や「つんぼ桟敷」も放送禁止で、「四つ足」や「かとんぼ」もだめです。これはよい子のみなさんには理由がわからないと思いますが、同和の人々の隠語です。別に法律で決まったわけではないのですが、なんとなく禁止されています。

今度トランプさんが当選した一つの背景として、こういうポリコレの行き過ぎがあるといわれています。トランプさんは露骨な差別語は使いませんが、「壁をつくってメキシコ人を締め出す」とか「彼らはレイプ犯だ」などといっています。実際に壁ができるはずありませんが、これが彼の数少ない具体的な「政策」です。

こういうポリコレではない発言が、白人の「よく言ってくれた」というストレス解消になって、予想以上の得票をしたんだと思います。60年代から続いている積極的な格差是正措置(affirmative action)で学校の入学定員などで少数民族が優遇され、白人が逆差別されているという不満もあるんでしょう。

この背景には、黒人を1500万人もアフリカからつれてきてドレイにした、アメリカの歴史があります。格差是正もポリコレも、黒人に対する罪ほろぼしという意味がありました。でも歴史的な役割は終わったので、やめるべきだと思います。アメリカは裁判所で法律の解釈が決まるので、これから連邦最高裁判所の判事をトランプさんが選ぶと、格差是正措置は廃止されるでしょう。

日本でも、機動隊員が「土人」といっただけで国会まで大騒ぎになるのはバカげています。蓮舫さんの国籍法違反を指摘したら「差別だ」と問題をすりかえるなど、ポリコレを悪用する人も多いので、言葉狩りはやめるべきだと思います。こういうことがいえるのもアゴラだけですが、困ったものです。