【映画評】ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気

渡 まち子

ニュージャージー州オーシャン郡。20年以上仕事一筋に生きるベテランの女性刑事ローレルは、ステイシーという若い女性と出会う。年齢も環境も違う二人は惹かれあい、郊外の家を購入して一緒に暮らすようになる。だが、幸せな生活は長くは続かず、ローレルにガンが見つかり、余命半年と宣告される。ローレルは自分が死んだ後も、愛するステイシーが思い出がつまったこの家で暮らせるように、遺族年金を残そうとするが、同性のパートナーには法的にそれが認められなかった。病気が進行する中、ローレルは、自分たちの権利を訴えて法制度改正を求める活動をはじめるが…。

同性のパートナーに遺族年金を残すため法制度や世間の偏見に挑んだ女性の実話「ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気」。本作はドラマ仕立てだが、ベースになっているのは、第80回アカデミー賞短編ドキュメンタリー映画賞を受賞した「フリーヘルド」だ。女性刑事ローレルは、ずっと同性愛者であることを隠してきた。オーシャン郡が保守的な土地柄で、これまた保守的な男性社会である警察組織で、生き残っていくために、やむを得なかった。彼女に好意を持つ相棒のデーンにも打ち明けていない。そのことで自分への信頼を疑うデーンに、ローレルが言う「あなたは、白人で、男性で、ストレート。私とはスタート地点が違う」という言葉が、彼女が置かれた立場の弱さを物語る。女性というだけですでにハンデなのに、さらにLGBT(性的少数者)では、どれほど勤勉で優秀でも、仕事でまっとうな評価は得られないのだ。それでもローレルは戦う。ガンで憔悴しきった彼女の訴えは、次第に影響力を増すが、彼女自身は単に遺族年金を恋人に残すという平等を求めただけ。だが周囲の人々、ゲイの権利を主張する活動家たちによって、社会的ムーブメントになっていく。この時のローレルとステイシーのとまどいがリアルだ。もしもローレルが健康なら、彼女たちはできるだけ静かな人生を送ることが望みだったのかもしれない。

LGBTの権利は、先人たちのひとつひとつの努力と勇気と犠牲によって積み重ねられてきたのだ。当たり前のことを当たり前に要求することの難しさが、ローレルとステイシーのカップルの姿から痛いほど伝わってくる。演技派のジュリアン・ムーアは安定の名演、若手のエレン・ペイジはボーイッシュなステイシーを繊細な演技で好演している。終盤、病が悪化し声が出なくなったローレルに代わり、ステイシーが法廷でスピーチするシーンが感動的である。本作はLGBTの映画であると同時にフェミニズムの映画でもあるが、不当に奪われた権利を守るために戦った勇気ある人々の実話として、男女を問わず見てほしい。
【65点】
(原題「FREEHELD」)
(アメリカ/ピーター・ソレット監督/ジュリアン・ムーア、エレン・ペイジ、マイケル・シャノン、他)
(勇気度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年11月29日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は松竹提供)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。