けさ(12月11日)の日本経済新聞が、民進党代表に就任して3か月を迎えたとして、蓮舫氏のロングインタビューを掲載している(電子版は有料会員限定)。
とがった自分のジレンマ 就任3ヶ月 民進・蓮舫代表に聞く
――代表になって感じたことは。
「党のガバナンスは本当に大変だ。細やかなところに目配りしつつ大胆な判断も必要だ。蓮舫というキャラクターのとんがり方が期待されるが、とがることで党内にハレーションを起こすのをどうなくすかというジレンマが一番大変だ」
ははは。これは言い得て妙なコメント。日経の整理記者(レイアウト担当)が見出しに「とがる」を入れただけある。
――党首討論に初挑戦。高支持率の安倍晋三首相は攻めづらかったか。
「一切ない。どんなに支持率が高い政権でも、どんなに人気のある首相でも、私たちは正論をもって臨むべきだ。ただ明快な議論をしようという答弁がないのが非常に残念だった。ヤジで逃げてごまかす、まっすぐ私の目を見ない、私の質問に答えないの3つだ」(太字は筆者)
ああ、そうですか(棒)。「ごまかす」「まっすぐ見ない(=指摘された問題を直視しない)」「質問に答えない」。毎度のことだが、そっくり、そのまま得意のブーメラン芸の本領発揮は相変わらずなわけだが、日経の記者があの問題に触れているのか読み進めてみると。。。
あれ?二重国籍の二の字もない!目を皿のようにしてもう一度、最初から読んでみたが、漢字の「二」の字が本当にない!「重」の字はあったが、「政権を取るために何に重点を置くか」という質問にやっと入っていたくらいだ。
読む前から、日経らしく経済を軸に政策面主体のインタビューになると予期していたし、そのあたりは一般紙以上にきっちりと民進党の弱点を追及してもらいたいところだが、とはいえ、蓮舫氏とのQ&Aのどこにも二重国籍問題が存在しないのはどうなのか。近著「蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?」(ワニブックス)では、政治家をウォッチするメディアのあり方についても問題提起したが、もし、やり取りすらしていなかったのであれば、党首の適格性をしっかり問いかけたインタビューと言えるのだろうか。
この手の政治家のロングインタビューを掲載する際、どうしても取材を受けた側の言い分の垂れ流しになりそうなので、それでは政治家本人のブログや党の機関紙を読まされているのと同じになる。そこでインタビューをした記者のコラムや、有識者の時には厳しい分析談話も載せて、少しでもニュートラルにするものだが、かろうじてテレビでおなじみの政治評論家、有馬晴海氏の談話の冒頭でさらりと触れただけだった(リンク先は有料会員限定)。
二重国籍問題で党内から代表選をやり直せという声まで出たが、いまは落ち着いた。次期衆院選は蓮舫氏で臨む雰囲気になった。しかし代表選は個人票で勝ったわけではない。(以下、略)
「記者の目」でインタビュアーの宮坂正太郎記者は「具体的な対案で国家像示せ」と毒にも薬にもならないザックリ話の短評に終始している。「二重国籍」は小見出しですら掲載しない。この編集構成にしているあたり、日経新聞のこの問題を巡るスタンスがにじみ出ている。
日経新聞は、経団連の「広報」紙的な機能もあるわけなので、TPP推進を始め、輸出産業の利益になるよう、グローバル経済重視の論調であり、外交的には伝統的にリベラルな感覚を持っている。「二重国籍」で電子版の過去記事を検索してみると、社説はまだ載せていないようだ。就任1ヶ月時点のまとめ記事(10月16日朝刊)では、小見出しレベルで「くすぶる『二重国籍』」を掲載していたが、その後、大きくは取り上げてこなかった。おおよそ二重国籍を認めない日本の国籍制度が立ち遅れているくらいの相場観なのだろう。
しかし、それならそれで、朝日新聞的なエモーショナルな感覚ではなく、グローバル経済の視点からロジカルに擁護もしくはニュートラルに取り上げればいいではないか。宮坂記者はその場で蓮舫氏に対し、「二重国籍問題が足枷になっているが、一方で日本の国籍制度がグローバル化の現実に合っていないという指摘もある。多様性を大事にする党是であるならば政権公約で国籍法改正を入れるつもりはないか?」と迫ってみてはどうだったのか。
まさか、党の広報から「二重国籍問題については取り上げない代わりに独占インタビューいいですよ」なんて言われてないでしょうね。
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民進党代表選で勝ったものの、党内に禍根を残した蓮舫氏。都知事選で見事な世論マーケティングを駆使した小池氏。「初の女性首相候補」と言われた2人の政治家のケーススタディを起点に、ネット世論がリアルの社会に与えた影響を論じ、ネット選挙とネットメディアの現場視点から、政治と世論、メディアを取り巻く現場と課題について書きおろした。アゴラで好評だった都知事選の歴史を振り返った連載の加筆、増補版も収録した。
アゴラ読者の皆さまが2016年の「政治とメディア」を振り返る参考書になれば幸いです。
2016年12月吉日 新田哲史 拝