「ひとつの中国が終わる」のは歴史的必然?~蓮舫どうする

八幡 和郎

(Wikipedia、民進党サイトより:編集部)

トランプ次期大統領が、11日放送のFOXテレビの番組で、中国本土と台湾は不可分の領土だとする「一つの中国」原則を米国が維持していくかは、中国の貿易や外交政策次第だと述べたという。 

トランプ氏と台湾の蔡英文総統との電話会談はハプニングかと思われたがそうでもなさそうだ。

トランプ氏は「貿易関係などで合意が得られなければ、なぜ『一つの中国』に縛られないといけないのか」「中国は為替操作などで米国に不利益を与えている」「南シナ海に大規模な軍事施設を建設するな」「北朝鮮への対応も不十分である」などとした。

台湾をからめた「ひとつの中国」原則の話は、蓮舫さんの二重国籍問題を論じる中でも扱ったところだし、近著『蓮舫「二重国籍」のデタラメ』(飛鳥新社)でも1章を設けてている。 

もともと、ひとつの中国原則は北京政府が国交を結ぶに当たって各国に要求して認めさせてきたものだ。 

しかし、それが未来永劫に続くものというのは無理がある。どこかの国が他国の領土の一部が独立するといったことをどんなことがあっても支持しないと永遠に保障するなどできないことだ。 

また、あらゆる民族であれ、住民であれ、政治的な主張として分離独立を要求する言論や行動の自由はあるし、それを、どこまで制限できるかは、常に難問なのだ。 

中国についても、少なくとも行きすぎた分離独立運動の抑圧は国際的に容認されないし、その結果として、領土の一部が分離独立することが国際的なコンセンサスとなることはありえないわけではない。

それから、「事情の変化」ということはおおいにありうる。まず、台湾については、「ひとつの中国」というのは、蒋介石が台湾を支配し、「国民政府こそ正統な中国政府」だと主張していたことが前提で、独立派が政権をとって、中国政府でなく台湾政府だと称していることで、その基礎はかなり崩れている。 

香港については、一国二制度を中国が誠実に守っていないとなったときにどうするかという問題があり、それも徐々に危険水域に近づいている。

それから、ひとつの中国の前提として中国が領土を積極的に拡張しようとかそれに類する行動をとったときはどうなるかと言う問題がある。「一帯一路」も「大東亜共栄圏」を思わすところがあるし、南シナ海での中国の行動もそうだ。 

もともと「ひとつの中国」というのは、かなり無理がある話を中国が外交交渉でもぎとった話だ。そして、それを維持するためには、強気一点張りは最良の姿勢ではないと思う。 

そして、ここ数年の強気すぎる対外政策があり、そこにトランプ登場というハプニングで、いよいよ綻びが出てきたのがここ数週間の動きだ。そして、一歩、対処を誤ると、ソ連崩壊と同じような事態に陥ることはおおいにありうる。

ちなみに、拙著『蓮舫「二重国籍」のデタラメ」(飛鳥新社)では、「私は台湾独立についてこう考えている。日本政府は一つの中国原則に基づき台湾独立論を支持していないが、台湾独立論を中国が抑圧することは間違いである。台湾の人々のほとんどが安定して独立賛成するようになれば、国際的にも支持が広がるだろうし、そのときには、彼らの希望が叶えられることは好ましいことだ。気持ちとしては台湾独立論を支持したいが、霞ヶ関で担当課長を経験した立場において、過去の外交を無視できないし、日本政府にとってすぐに現実的な選択肢になり得ない政策は提言できない」というようなことを書いた。 

やはり、担当の公務員だったものにとって、それに従って仕事をしてきた原則を間違っていたということは、慎重であるべきだという矜持がある。とくに外交はそうだ。 

日本はそれが正しかったかどうだったかは別として、ひとつの中国原則を守ることを約束した。それが永遠に続くべきものかは、上記で書いたような限界があるのだが、それでも、それを破ることは、日中関係の基礎を危うくする。 

そういう意味でアメリカより前に出る形で動かない方がよい。また、なんだかんだいって、中国の混乱は世界平和にとってもおそろしいし、日本にとっても利益がない。難民でも押し寄せる契機になったらたいへんだ。しかし、世界史は強気すぎる政策が盤石と見えた帝国の瓦解をもたらしたことが多いことを教えてくれる。(近著「世界と日本が分かる世界史」扶桑社新書)

習近平は、国内で国民に苦い政策を呑ます必要に迫られているし、それは必要なことで支持したい。しかし、国民をつなぎとめるために対外膨張政策をとることは、危険きわまりないことだと自覚もしてほしいのだ。 

そして、蓮舫さんは、「自分のアイデンティティは日本でなく台湾」とかいっていたはずが、二宮国籍問題での苦し紛れで、「ひとつの中国原則で台湾は国でない」とかいって、「二重売国奴」とかいわれるはめになった。

このへんで、祖母や父の愛した台湾のために「日本の女トランプ」になるのもひとつの選択だ。彼女の立場なら、不自然でない。あるいは、もはや日本のジャンヌダルクなどと誰も思わないが、台湾のジャンヌダルクになるチャンスはまだ残っているというものだ。

そのときは、法務省も台湾への帰化は認めないとかいう変な法解釈はやめて暖かく送り出してあげたい。(法務省のこのおかしな法運用についても拙著で詳しく論じている。もっとも蓮舫さんが本当に台湾籍を放棄したかは未確認だからわざわざ帰化する必要はないかもしれないが) 

八幡和郎
飛鳥新社
2016-12-21