レックス・テイラーソン:エクソンの利害からアメリカの利害へ

レックス・テイラーソン氏(Wikipediaより:編集部)

正式に次期国務長官に指名され、米議会の確認を求めるプロセスに入ることとなったレックス・テイラーソンに関する追加記事を、FTのEd Crooksが書いている。「結果重視の石油会社のボスは外交と官僚主義の世界と戦わなければならない」というサブタイトルがEdの言いたいことを代表しているようだ。

共和党内部にも彼の国務長官就任に反対する人々がいることに対し、ビジネス社会の常識からいえばお門違いの批判だ、という声を紹介し、より難しい問題は就任後の国務省内で発生するのでは、と指摘している記事だ。原題は “Rex Tillerson : from Exxon’s interest to Ameica’s” (Dec 14, 2016 around 3:00am Tokyo time) となっている。

いつものとおり筆者の興味にしたがって要点を紹介しておこう。

・(上院の確認を得るための)最大の障壁は、彼がロシアと、ロシアのプーチン大統領と個人的関係があるとみなされている、ということだろう。

・業界関係者は、それはビジネス世界の実態を知らない人の誤解だ、という。

・たしかに、テイラーソン氏は、90年代から幹部として、2006年からは社長としてロシアとビジネスを行っている。しかもどの西側石油会社よりも成功しており、これらの取引をまとめるためにプーチン氏と深く交渉した。2013年にはロシアのOrder of Friendship勲章を授与されているのも事実だ。

・エネルギーコンサルタントのJoe Stainslawは、これらの事実は、彼がプーチン政権の支持者だとか同調者だということを意味するものではない、と指摘する。「友情の定義には注意深くなければならない」「取引を行うにはドアを開けさせ、入り込まなければならないし、一緒に仕事をしなければならない。(だが)すべてのことに同意する必要はない」

・(人生の大半を刑務所で過ごし、何度も脱獄して有名になった銀行強盗の)ウィリー・サットンが、そこに金があるから強盗をはたらいたように、エクソンはそこに石油があるから、カナダから赤道ギニアまで、資源の豊かな国で仕事をしているだけなのだ。

・ロシアは世界最大の原油生産国で、世界第二位のガス生産国だ。ソ連崩壊後、ほとんどすべての国際石油会社がロシアで事業を進めようとした。

・テイラーソンは(プーチンに限らず)、リビアのカダフィやカザフスタンのナザルバエフなど、世界中のリーダーたちと個人的に(会って)取引をしている。

・彼のアプローチはいつもきわめて実際的だ。エクソンの投資家にとってベストの結果をもたらすだろう方法ならなんでも追求する。たとえばクリミア侵攻に対するロシアへの制裁については何度も反対するコメントをしている。それはプーチンの役にも立つかもしれないが、より直接的に、ロシアのシェール開発と北極海開発を進めたいと考えているエクソンにとって有利なことなのだ。

・一方でテイラーソンは、2008年セント・ペテルスブルグにおいて、ロシアが「法の支配を尊重していない」ことを批判している。

・エクソンで一緒に仕事をしたことのある人は「彼がそれを通して40年間世界を眺めてきたレンズとは、『エクソンにとっていいことかどうか』というものだった」「彼がロシアや中国、あるいはISISについて世界観を持っているとは思えない」という。

・テイラーソンがエクソンにとって(有益な)友人を得ることに成功した理由は、エクソンが複雑かつ巨大な石油ガスプロジェクトをスケジュール通り、予算通りに遂行する効率性を保持している、という事実にある。

・ロシアでの最初の経験は、責任者としてサハリン1プロジェクトを管轄したときだが、政府とほとんど問題を起こさなかった。近隣のシェルが遂行しているサハリン2LNGプロジェクトが予算オーバーとなり政府の怒りを買って、結局シェアーの大半を取り上げられたが、(大量の埋蔵量を持つ)ガスの使用方法をめぐって長いあいだ足踏み状態になっても、好関係を維持し、政府とのあいだでクリティカルな問題とはならなかった。

・エクソンを含む大手国際石油6社が関与しているカザフスタンの500億ドルカシャガンプロジェクトでも、伊ENIが何度も技術的問題を起こし、2007年に政府が大幅な変更をしようとした時、テイラーソンは重要な役割を果たした。取り上げようとするカザフスタン政府の要求の前に崩れ落ちそうになったが拒否し、関係各社およびカザフ政府をまとめあげ、何とかプロジェクトを前進せしめた。カシャガン油田は、今年生産を開始している。

・就任の「確認」というハードルを乗り越えた場合のテイラーソンにとって最大のチャレンジは、まったく異なった権威をバックに仕事をどのようにしていくか、ということだ。「彼は圧倒的な支配者として仕事をすることに慣れている。だが今度は、クソ真面目な外交官たちと一緒に仕事をしなければならない」とかつての同僚はいう。「国務省はレックス・テイラーソンを歓迎しないだろう」

・BCG Center for Energy ImpactのRobin Westは同意して次のようにいう「彼が国務省に行くとびっくりするだろう」「エクソンは指揮統制の下、仕事をする組織だが、国務省はそのようには機能していないからだ」

なるほどね。
でも、上院外交問題委員会の共和党委員が全員「ビジネス界」の常識を知っているとは限らないからな。「確認(Confirmation)」が取れない場合、トランプ「大統領」はどうするのかな?これまた興味津々だな。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年12月14日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。