小池新党×公明党〜都政版“薩長同盟”成立か

新田 哲史

私立高無償化等の提言を知事に申し入れる都議会公明党(公明党東京都本部公式サイトより引用)

都議会の公明党が自民党と袂を分かち、小池都政に協力する方向へと舵を切った。拙著「蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?」では2017年の小池都政を少し占っているが、率直に行って想定を超える事態だった。

今後、小池新党が誕生し、来年の都議選に向けて選挙協力にまで発展してしまえば、国政のパワーバランスにも影響を与えかねないだけに、その衝撃は先日の「7人の侍」除名どころではない。そして、その一報を聞いて、以前、アゴラのある寄稿者の一人が大阪維新を「長州藩」、公明党のことを「薩摩藩」にそれぞれ例えた時のことを思い出した。

薩摩藩を彷彿とさせる公明党の立ち回り

雑談ベースでのことだったので正確な日付は覚えていないが、おそらく大阪都構想の住民投票実施をするかどうかが注目された2年前の冬だったろうか。その頃の維新は橋下氏が率いてノリノリの頃。大阪では全ての既成政党と対峙してでも都構想へと爆進する様は、幕府や全国の諸大名と戦うことも辞さなかった長州藩的な気鋭さを感じさせていた。

一方の公明党は、「反維新」でありながら、住民投票実施には賛成した。当時、直前にあった衆院選で関西の公明党候補のいる選挙区に維新が対抗馬を立てなかったことなどが取りざたされたが、キャスティングボートを握り、少数でも政局全体に影響力を行使するためには、機を見るに敏な立ち回りが印象に残った。このあたり幕末で言えば、時には幕府と会津に加勢し、局面が変われば倒幕に動いた薩摩藩を彷彿させるものがある。

そして今度は東京都政を舞台に公明党の“薩摩藩”ぶりが発揮されるのだろうか。都民ファーストを掲げ、上山信一氏らの外部ブレーンを重用しながら都政にメスを入れていく急進的なアプローチを見せる小池氏と周辺は、東京都政の“長州藩”。そして、あくまで小池陣営サイドの視点に立てばの例えだが、旧態依然とした“幕府”が都議会自民党という位置付けなのだろう。

夏には“倒幕”を掲げ、都知事選で圧勝したものの、これは第二次長州征伐で攻め入る幕府軍を撃退した通過点に過ぎない。その時点で幕府体制はいまだ江戸に健在だったように、都議会の多数派は以前自民党であり、今度は敵地に乗り込んでの殲滅戦となれば、調略して相手を切り崩すなり、薩摩クラスの他の雄藩の加勢が必要になる。

たしかに、希望の塾が盛況で兵卒を志願する素人集団が大量に集まり、頼りにならない“民進藩”の現職都議まで加わって、果ては二重国籍問題で精彩を欠いた女当主まですり寄ってくる状況になったものの、関ヶ原のような大戦とその後の政権運営を想定するに当たっては、あまりに心もとないだろう。私も前回の記事でそういう見立てをしていたし、一昨日の公明党のニュース報道の前に記事を書いたとみられる高橋亮平氏も同様の問題意識のようだ。

小池氏は、擦り寄る蓮舫氏を邪険にしないと差がなくなる(拙稿)

小池新党に蓮舫民進党が急接近…新党は第三極を貫け!(高橋亮平氏)

私も(おそらく高橋氏も)幕府サイドを切り崩しながら陣容を整えていくことを小池新党の“理想形”として想定していたが、どうやら都政にいないと思っていた“薩摩藩”は存在していたわけだ。際立った組織戦闘力は政界屈指。国政では与党経験が長く、小池新党がパートナーシップを組む相手としては、選挙、政策立案ともに心強いだけでなく、早川忠孝氏も指摘するように、幕府に忠誠を誓い続けるべきか、それとも倒幕側に流れるべきか、迷っている議員たちの離反を後押しする可能性がある。

桂小五郎が薩長同盟の内容をまとめ、坂本龍馬が確認に赤で裏書きした手紙(宮内庁サイトより)

薩長同盟は「理」だけでなく「利」があって成立した

しかし、本物の薩長同盟が成立するまでには蛤御門の変などで両者が戦うなどの紆余曲折があった。大河ドラマ等で、仲介者の坂本龍馬が説得に苦労する場面はおなじみだが、倒幕という「理」を説くことだけでは同盟は成立しえなかった。最終的にその心理的障壁を乗り越えたのは、「理」だけではなく「利」もあったからだ。すなわち、武器が不足していた長州に薩摩が最新式の銃を売り渡し、兵糧米不足の薩摩には長州が米を仕入れる(最終的には薩摩が辞退したとされる)というバーターがあったことは、同盟の裏面史として示唆するものがある。

都議会公明党のこれまでの説明や報道によると、議員報酬削減案を巡る対立があったとしているが、果たしてそのような「理」だけで、自民党と40年近くに渡る都議会での盟友関係を断ち切り、相手が知事とはいえ、敵方に“寝返る”までの決断をあっさりと下すのであろうか。正直、東村邦浩幹事長の記者会見は唐突感が否めない。政治の世界に身を置いたことがある人間であれば会見で強調した「理」に疑問を感じ、「利」が何か、つまり小池知事との間でなんらかのバーターがあったのではないかと思うのは自然なことだろう。

ここで指標になるのは、いわゆる200億円の政党復活枠を廃止し、知事が予算編成権を完全に握ったことだ。すでに複数の政界「事情通」からさまざまな指摘・憶測を聞いているが、公明党サイドの意向が新年度予算にある程度、反映してもおかしくはない(知事への提言模様が都議会公明党サイトで既報)。ただ、それが党利党略的になり過ぎて、万が一にも“都民ファースト”の「理」が公明党・創価学会の「利」に取って代わられるようなことがないのか。今はネット時代で予算の動きが可視化されやすくなった分、敵対陣営だけでなく、都民からも厳しい目が注がれやすい環境になっている。小池氏、そして今回の「同盟」を裏で進めた当事者たちはそのことを忘れてはなるまい。

はたして都政版「薩長同盟」の成否はいかに?

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民進党代表選で勝ったものの、党内に禍根を残した蓮舫氏。都知事選で見事な世論マーケティングを駆使した小池氏。「初の女性首相候補」と言われた2人の政治家のケーススタディを起点に、ネット世論がリアルの社会に与えた影響を論じ、ネット選挙とネットメディアの現場視点から、政治と世論、メディアを取り巻く現場と課題について書きおろした。アゴラで好評だった都知事選の歴史を振り返った連載の加筆、増補版も収録した。

アゴラ読者の皆さまが2016年の「政治とメディア」を振り返る参考書になれば幸いです。

2016年12月吉日 新田哲史 拝