民進党が、皇室典範について論点整理に止めたのは結構なこと

ご執務中の天皇陛下(宮内庁サイトより:編集部)

ごく一般的なことなのだが、いつま正面から見ていると物事の一面しか見えないが、斜に構えると案外全体像が見えてくることがある。

批判者の存在がありがたいのは、いつも物事を真正面から見ている人に時々違った観点から物事を見る必要に気付かせてくることがあるから。

個人的な誹謗中傷や明らかに揶揄とか勘違いでの批判については無視した方がいいことが多いが、いつも物事を真正面から見て出来るだけいい側面に光を当てようとしている時に、斜に構えた人が斜に構えて初めて見えることを指摘してくれると、ああ、そっちからはそう見えるのか、と反省する。

パターをするときに芝目を読むことは誰でもするだろうが、上からだけ見ているとラインをよく外してしまう。
光の当て具合で物事の見え方が大きく違ってくることがあるのは、皆さんご承知のはずである。

民進党の中で皇室典範特例法違憲論で統一見解を出そうという動きが強くなっている、というニュースを見たので、皇室典範特例法違憲論はいけん、いけん、と民進党の関係者に向けて慎重に検討されるよう熟慮を求めたのだが、これが功を奏したのかどうか分からないが、民進党の皆さんはとりあえず3点ほどの論点整理に止められたようだ。

これで結構だと思う。

論点整理であれば、与野党の間で各論点について意見交換を続け、場合によっては何らかの合意に達する可能性がある。
論点整理はどこでもやる作業で、論点整理したからと言って、何が何でも論点提出者の見解に拘束されるわけではない。

多面的に考察を進めるためには、ガチガチの結論までは出さないで、重要な論点を摘出してそれぞれの見解を述べあうことになる。

仮に民進党が皇室典範特例法違憲論を民進党の統一見解にしてしまうと、国会で皇室典範特例法を制定して天皇の譲位(生前退位)制度を創設した時に民進党は、筋として憲法訴訟を提起しなければならないことになる。

立法府である国会が皇室典範特例法を制定した時に、違憲立法審査権を持つ最高裁判所が当該皇室典範特例法を違憲無効だと判決するだろうか、ということを考えると、私は、理屈の付け方は色々あるだろうが、最高裁判所は結局違憲無効判決は出さないと見ている。

憲法第2条には「皇位は世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」と書いてあるではないか、皇室典範特例法は皇室典範とは別のものだから、これでは憲法の明文の規定に違反することになる、というのが皇室典範特例法違憲論を主唱される方々の議論なんだが、皇室典範特例法も憲法第2条に規定する皇室典範に含まれると解釈してしまえばそれで終わりになる議論である。

憲法の条文の解釈にはあれやこれや伸び縮みがあることは、皆さんご承知のとおりである。
自衛隊を違憲だと主張する憲法学者がかつては大多数だったが、今は憲法学者の中で自衛隊違憲論に固執する人は少なくなっているはずだ。

少なくとも、政治的には自衛隊は合憲の存在になっている。

集団的自衛権については現に違憲訴訟があちこちで起きているが、違憲訴訟を提起された方々がどこまで本気で最高裁判所が違憲無効判決を出すことを期待されているか甚だ疑問である。

違憲の疑義を出すことには政治的に相応の意義があるが、政治的には意味があっても再k場裁判所が違憲無効判決を出すはずだ、などと考えられているとしたら、ちょっと甘過ぎる。

集団的自衛権違憲訴訟なり平和安全法制違憲訴訟は、あくまで集団的自衛権の無制限の拡充や行使を抑止するための政治的な行動の一環として行われているのだろう、というのが私の理解である。

憲法第2条に言う「皇室典範」は、大日本帝国憲法(明治憲法)で言う皇室典範と似て非なるものであり、あくまで国会で議決されることになっている。

国会で議決される皇室典範は、その制定の形式上は一般の法律と同格に位置づけられているものだから、結局は憲法は皇位の継承の具体的な在り様についての制度設計は、国権の最高機関とされている立法府である国会に委ねていることになる。

憲法の前文で、「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」と規定し、さらに「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し」と明記したうえで、その第41条で「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。」と規定されていることを考えれば、国会が周到な配慮の下で審議を尽くして皇室典範特例法の制定に踏み切った時に、最高裁判所があえてこれに異議を述べ違憲無効の判決を出すとは、私にはとても考えられない。

それでも、違憲の主張をされる方々の意見に配慮して、現行皇室典範の付則に皇位の承継については特別の事情がある時は皇室典範特例法を制定することが出来る旨の1条を付加して、出来るだけ違憲の疑義を薄めておけばいいではないか、というのが私の意見なのだが、これは単なる政治的な配慮、政治的妥協の一つの手段で、法律論的にそうでなければならない、といった趣旨の提案ではない。

内閣法制局は、皇室典範特例法違憲論は唱えないはずである。
内閣法制局が違憲論を主張するようだと、とても閣法にはならない。

まあ、この議論も後1ヶ月くらいで落着するはずだ。
民進党の皆さんは、統一見解をお出しになるのなら、くれぐれも落としどころをよくお考えになることだ。


編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2016年12月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。