AIの知財問題、新局面に

次世代知財システムシンポ、続き。

次世代知財委員会は(恐らく)世界で初めてAI創作物の知財問題を本格議論しました。AIが生むコンテンツに、著作権以外の新権利を与える、創作物登録制を作る、AIに人格権を認める(赤松健さん案)、という案をたたかわせました。

しかしシンポでリクルート石山さんが唱えたのは、AIが生む創作物ではなく、AIそのものの知財をどうするという問題提起。AI創作物を生み出す「学習済みモデル」の重要性に注目せよということです。コンテンツよりシステム、ということです。

全体を整理します。
1) 生データを入れたデータセット
2) AIアルゴリズム
3) 機械学習を経た学習済みモデル
というシステムがAIを構成していて、そこにデータを入れることで生まれるアウトプットが4) AI生成物(創作物)。

委員会は最後の創作物を議論してきました。これに対し石山さんは3)の重要性を訴えた。

ところがここで喜連川さんは、それらより1)のデータそのものが最も重く、大事なのだと言う。国として守るべきはデータそのものであると。それ以外はどうでもいい存在だと言うのです。

そして2)AIプログラムだけが、現行著作権法では保護の対象になっているのです。1)データは著作物ではありませんし、4)AI創作物も現状ではそうなっていません。さあどうしましょう。

トータルの知財の仕組みをどう構築するかがぼくらへの問いです。著作権で保護するのか、あるいは契約に委ねるのか、オープンにするのか。

それらとは別に、国の戦略としては1)~4)のどこを重視するのか。これまで以上に大きな問いが生まれてしまいました。大変だ。

ところで4)創作物に関し、福井さんが、AI女子高生「りんな」のつぶやきがコピーされても経済被害はなかろう、AI創作物を保護すべきかは慎重に、との発言中に、喜連川大先生が「りんな毎日つかってる」とつぶやいていたのが衝撃でした。

さて、3つ目のテーマに移ります。
国境を越えるネット上の知財侵害について。次世代委員会では、正規版促進、悪質リーチサイト法的対応、悪質サイト広告調査、プラットフォーム対応検討、ブロッキング検討、といった方向性を示しました。喫緊の課題として踏み込んだつもりです。

パネル前にドワンゴ・川上さんがプレゼンしました。FC2動画という米登記の日本企業は、創業者が指名手配中で、削除申請には応じることなく徹底抗戦する素晴らしい会社だと。そういうのに国際対応するにも、国といえど消費税や刑事がやっとで、時間がかかると。

川上さんは、サイトブロッキングしかないと言います。英仏韓など世界40か国が導入していて、日本は児ポのみ認めているが、それを広げるのは可能であり、簡単なことだと。

これに対してはパネラーも異論はありませんでした。喜連川さんは、ネット創成期に性善説で広げようとした状況は今や変化しているとし、ブロッキングは当然だと言います。この空気感を制度に持ち込むことが問われている。制度担当者は、腹をくくらねば。

さて、このシンポは、政府委員会の番外編で、気楽に討論したのですが、しかし、もはや次の知財本部のラウンド協議に入り込んだ風情です。次ラウンドの司会役をぼくが務めるかどうかは存じませんが、見えてきたテーマからすると、次も、大変です。

やりましょう。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年12月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。