【映画評】アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場

英国軍の諜報機関の将校キャサリン・パウエル大佐は、最新鋭のドローン偵察機を使い、アメリカ軍と共に英米合同テロリスト捕獲作戦を指揮している。ケニア・ナイロビで過激派組織アル・シャバブのテロリストの隠れ家を突き止め、彼らが大規模な自爆テロを決行しようとしていることを察知。アメリカ・ネバダ州の米軍基地では新人のドローン・パイロットのワッツ中尉らがミサイル発射の準備に入った。だがその時、殺傷圏内に幼い少女がパンを売りに現れる。英米軍は、民間人の巻き添えという予期せぬ事態に、少女の命かテロリストの殺害かの選択を迫られることになるが…。

軍用ドローンの対テロ作戦を通して、無人機を使う現代の戦争の実態と人間の倫理を問う問題作「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」。南ア映画の秀作「ツォツィ」の監督ギャヴィン・フッドの、手堅く緊迫感あふれる演出が光る異色の戦争映画だ。ドローンを使った戦争に携わる人間の葛藤を描いた作品には「ドローン・オブ・ウォー」があり、ボタン一つで人間の命を奪う操縦者のPTSD(心的外傷後ストレス障害)が取り上げられた。本作では、ドローン戦争の詳細な実態を通して、それぞれの国、立場による対テロ戦争の実態と、巻き添えという人道的、倫理的問題を掘り下げている。

複数の国が合同で行う作戦は、指揮系統だけでも複雑で作戦は遅々として進まない。英国軍と米国軍、軍人と政治家、現地の工作員、さらにはテロリストの視点までも盛り込む、俯瞰的な群像劇になっている。迷彩服に身を包んだオスカー女優のヘレン・ミレンが演じるのは、強い意志でテロリスト撲滅を指揮する猛々しい女性司令官である。彼女が、責任をとるのを嫌い保身ばかりの政治家にいらつく姿がリアルだ。さらに物語は、罪のない少女の命を犠牲にしてでもテロリストを殺害すべきか、それとも…という命題を突きつけ、映画はにわかに白熱したディスカッション劇へと変貌。このスリリングな展開に、一気に引きこまれる。

正義とモラルの狭間で揺れ動く人々の思惑が交錯する中、パウエル大佐が驚愕の案を提示し、自爆テロを食い止めようとする展開は、息詰まるサスペンスのようだ。ドローン攻撃を仕掛ける人間は、安全な場所にいる。だが決して無傷ではいられない。彼らの選択と結果は映画を見て確かめてほしいが、そこには、正解はない。タイトルの“アイ・イン・ザ・スカイ”とは神の目という意味だろう。遥か上空から見ている神と同じく、私たち観客もすべての立場の人間が行う一部始終を目撃する。戦争という大きな罪の、苦い後味が残る秀作サスペンスだ。
【75点】
(原題「EYE IN THE SKY」)
(イギリス/ギャヴィン・フッド監督/ヘレン・ミレン、アーロン・ポール、イアン・グレン、他)
(会話劇度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年12月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。