労基法違反事件の送致を受けての電通の社長の辞任は何をもたらすか

過労死自殺問題の責任を取り、年明けの辞任を表明した電通の石井直社長(電通サイトより:編集部)

厚労省の東京労働局が東京地検に高橋まつりさんの過労自殺を労基法違反として書類送検したことで電通の石井直社長が辞任を表明するに至ったというニュースが大きく報道された。
会社のトップが辞任を表明せざるを得ないほどにこれまでの電通の労務管理には問題があったということだろう。

どちらかと言えば経営者サイド、使用者サイドに立って労働関係紛争を扱うことが多かった私だが、高橋まつりさんの過労自殺問題がこんな風に大きな社会問題になったことは、一法律家の観点からしてもよかったと思っている。

勤労者、労働者が過酷な労働環境の中で仕事をせざるを得ない状況に追い込まれていることを放置していたのでは、日本の社会はいつかは崩壊する。

不幸な事件ではあったが、高橋まつりさんの過労自殺問題を契機にそれぞれの職場の労働環境に光が当てられるようになり、労働基準法に違反するような労働環境が改善され、日本の将来を担うべき若い方々がより働きやすい労働環境の下で仕事ができるようになることは、いいことだと思っている。

私などはモーレツ社員教育が体に沁み込んでおり、つい他人の三倍働くなどということを口にしてしまうタイプの人間だが、やはり本人の適応力や体力、精神力、能力等を顧慮しないで、闇雲に働け、働けとばかりに社員の尻を叩くのはいけないことだろうと思う。

星一徹のようなススパルタ教育やスポ魂教育は、やはり今はなじまない。

勿論、いつまで経っても結果を出せないような人ばかり揃っていたのでは、そういう企業は早晩駄目になって行ってしまうだろうが、従業員を自殺に追い込むような職場を漫然として放置するようなことは、基本的に経営者サイド、使用者サイドに立つ弁護士としても絶対に認められない。

安倍内閣の働き方改革の方向性が段々見えてきたな、という印象である。
本来は労働組合の側からもっと強力にこういうことを訴えてもいいと思うのだが、今は内閣の方がこういうことに積極的なようだ。

まあ、いい傾向だろうと思う。

経営者サイド、使用者サイドに立っている弁護士や社会保険労務士にとっても、やるべき仕事が増えるようである。

過日、皆さんにご紹介した木村誠さんが理事長を務めているNPO法人安全衛生優良企業マーク推進機構や私どもが主宰している一般社団法人産業法務研究会、更には産業法務研究会の専務理事の平川博さんが会員となっているNPO法人リスクマネージャー・アンド・コンサルタント協会等の活動にもそろそろ日が当たるかも知れない。


編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2016年12月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。