憲法の何を改正するのか

池田 信夫

安倍内閣の支持率は60%を超えて絶好調だが、その最大の原因は蓮舫代表に象徴される野党がますます万年野党化したことで、政権が大きな実績を上げたわけではない。経済政策は弾を撃ち尽くしたので、今年出てくるのは安倍首相の悲願とする憲法改正だろう。私は改正できるならしたほうがいいと思うが、そもそも何を改正するのだろうか。

朝日新聞も元旦の社説で憲法を取り上げているが、注目されるのはいつもの「護憲」や「平和主義」が消え、「立憲主義」一点張りになったことだ。これは根本清樹論説主幹の趣味だろう。彼が問題にするのは、自民党案が第97条を削除したことだが、これは第11条と重複している。

第11条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

第97条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

第97条の原文はGHQ民政局長のホイットニーが書いたので、無理やり最後の章に入れたというのが通説だ。自民党案も11条は残しており、彼らが立憲主義に反対した事実もない。97条の削除だけ取り上げて「立憲主義に対する真意を疑われても仕方あるまい」という根本氏の話は意味不明だ。

これは朝日は第9条の改正に反対しないという暗示だろう。それは結構なことだが、共産党まで自衛隊と日米同盟を認めた今は、第9条を改正しても大した意味はない。ガラパゴス憲法学者の騒いだ「集団的自衛権」も、憲法が否定しているわけではない。文民統制や軍法会議など、戦力の存在を前提にした法整備は必要だが、憲法に書く必要はない。

それより憲法の大きな欠陥は、衆参両院が対等の比重になっていることだ。これはもともと一院制だったGHQの原案に日本側が参議院を入れたことが原因といわれるが、55年体制で自民党が圧倒的に強かったときは意思決定が重複し、民主党政権のように与党が弱体化すると「ねじれ」が起こる。

これを解決するには、参議院をなくすことがベストだが、第59条2項「衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる」という規定を(予算や条約と同じく)「衆議院の議決を国会の議決とする」と変えればよい。

これは大した改正ではなく、国会法の改正でも可能だが、自民党はまったく手をつけない。参議院自民党が反対したからだ。なぜか朝日新聞も指摘しない。平和主義や立憲主義のように格好いい「主義」の問題ではないからか。

憲法は理想を語る精神訓話ではなく、「天賦人権」のような宗教的信念を語る場でもない。Constitutionは統治機構を定めるものであり、それ以上のものではないのだ。