【映画評】本能寺ホテル

渡 まち子

流れに身を任せて生きてきたOL繭子は、会社の倒産をきっかけに恋人の恭一と結婚することになり、彼の実家の京都へと向かう。京都の路地裏にたたずむレトロな宿・本能寺ホテルに宿泊することになるが、そのホテルのエレベーターに乗ると不思議な世界へ迷い込み、気が付けばなぜか1582年の本能寺へとたどり着いていた。繭子は現代と1582年を行き来しながら、織田信長や森蘭丸と交流し、次第に信長の人間性に惹かれていく…。

平凡なOLが天下統一目前の織田信長と出会い、今もなお多くの謎に包まれた歴史の大事件“本能寺の変”に遭遇する歴史ミステリー「本能寺ホテル」。過去とつながる不思議なホテルに滞在したヒロインは、戦国時代と現代を行き来するが、タイムスリップものの常として、未来から来た人物が過去を変えていいのか?という命題にぶつかってしまう。最初は暴君だと思った信長の、人間的な魅力を知った繭子は、信長に本能寺で起こる出来事を伝えていいものかと悩むが、それに対する信長の対応が、これまた人間の大きさを表していて、その後に起こった秀吉の中国大返しがなぜ可能だったのかという疑問の答えに結びつく展開はなかなかうまい。信長が好きだったというお菓子・金平糖や、これを持てば天下人になれるという茶入など、歴史の面白アイテムが散りばめられているのも楽しい。

特にやりたいこと、なりたいものもなく漠然と生きてきた繭子が、本能寺の変直前の信長に会うという強烈な体験によって、内面が変化し成長するところが一番の見所…と言いたいところなのだが、このヒロイン、まるでキャラが立っておらず魅力に乏しいのだ。歴史に詳しい、もしくはまったくの歴史オンチなら、話もコミカルになっただろう。また、自分の意見もさしてない性格なのに、突如、信長にタンカを切ってみたりと、性格に統一性が見られない。つまりこの主人公に感情移入できないのだ。むろん演じる綾瀬はるかのせいではなく、脚本に問題があるのだろう。少々安易な成長物語に仕上がってはいるが、現代のパートでは、京都巡りの趣もあるので、ライト感覚の歴史ものご当地映画として楽しみたい。
【50点】
(原題「本能寺ホテル」)
(日本/鈴木雅之監督/綾瀬はるか、堤真一、濱田岳、他)
(成長物語度:★★★☆☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年1月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。