成果主義で失敗した会社が帰結すべきたった一つの理論

尾藤 克之

写真は高山氏。経営者JPより。

2000年以降、多くの会社で成果主義人事制度が導入された。成果主義による組織活性化が期待されたが、むしろ制度上の矛盾を露呈する結果に陥った。社員のマインドは疲弊し将来のパスが見えにくく漠然とした不安が蔓延した。

当時、私は人事コンサルタントとして活動をしていたが、成果主義バブルを実感しながらも疑問を感じていた。職務評価の運用が上手く機能しなかったことが理由である。ポイントファクターは日本には馴染まないと確信していた。

成果主義に対峙する理論としてEQがブームになっていた。EQ理論提唱者のイェール大学のピーター・サロベイ博士(現学長)、ニューハンプシャー大学のジョン・メイヤー博士との共同研究で、わが国のEQ普及に尽力した人がいる。

現在、株式会社EQの取締役会長であり、『EQ「感じる力」の磨き方』(東洋経済新報社)の著者でもある、高山直(以下、高山氏)に、いまの人事システムの問題について聞いた。

■“Emotional Intelligence”という理論

――高山氏は、経営陣の一員として、採用や選抜、昇格の場面で見てきた現実に常々疑問をもっていたそうだ。人の能力や可能性は無限であるのに、学校名や学歴で差別されるのはなぜだろう。公平公正に評価されないのはなぜだろうと。

「そんななか、出会っだのが、“Emotional Intelligence”という論文でした。EQ理論の提唱者のピーター・サロベイ博士とジョンーメイヤー博士が、初めてEQを世に問うた論文です。内容を目にしたとき、わたしは強い衝撃を受けました。
・ビジネスで成功するためにはIQだけでなく、EQが必要である
・リーダーとして成功する人の多くは高いEQを備えている
・EQは学習や訓練によって伸ばすことのできる能力である

そこには、わたしが長い間、感じ続けてきた疑問に対する一つの明確な回答が示されていたからです。」(高山氏)

「求人情報誌会社の勤務を含め長年にわたり人材ビジネスに携わってきました。その間、常に頭にあったのが『いい人材=いい大学』という人材観に対する疑問でした。」(同)

――これは、一言でいえば、学校差別とでもいうべき採用姿勢である。「この仕事がやりたい」と意欲を燃やし、目標に向けて努力する能力がある人材でも、門戸すら閉ざされているケースが少なく無かった。

「企業の将来を決める人材採用を、IQという一つの偏った尺度だけで決めていいのだろうか。もっと広く、その人のもっている『人間的魅力』や『人間力』ともいうべき総合的な能力を見てあげることはできないのだろうか。それが可能なら採用する側にとっても採用される側にとっても幸せな結果になると考えていました。」(高山氏)

■伸ばせる能力であることが支持される

――結果的に、EQは大きなブームとなり、高山氏が経営するEQJapanの個別診断テスト受験者は30万人を超え、導入企業も3000社に達することになる。これは、EQのロジックがわかりやすかったことに加えて、伸ばせる能力であることが支持されたものと考えられる。

「ある事例を紹介します。ある商談のプレゼンに向かうためタクシーに乗りました。大きな商談で、『よし、やるぞ』と気持ちを高め、気合を入れて社を出ました。ところが、乗ったタクシーの運転手さんの話が暗いのです。「景気はどう、よくないでしょう」から始まり、「友達もリストラされて大変」「景気が悪いしノルマは厳しい」。訪問先に着くころには、高揚していた気持ちはすっかり沈んでいました。」(高山氏)

「その日のプレゼンは見事に大失敗。感情のエネルギーをすっかり運転手さんに奪われてしまい、短時問では感情を調整し高めることができなかったのです。」(同)

――こういったタイプの人はどこにでもいるものだ。きっと一人や二人は思い当たる人がいるだろう。

「一方では、話すと気分がよくなり、元気を与えてくれる人もいます。多少、気分が落ち込んでいても、会うとホッとし、話すほどに元気がわいてきます。彼らはいったい何か違うのでしょう。実は、一番の違いは使っている『言葉』にあります。『明るい言葉』は自分の気持ちを明るくし、周囲を明るくすることができます。」(高山氏)

「組織改革をする際に、難しい難解なコンサルティングを導入しても運用ができません。それよりも、『明るい言葉を使う』『挨拶をきっちりする』『元気な言葉で会話をする』、このような単純でわかりやすい施策のほうが組織は活性化するものです。とても簡単な方法ですから試してみてください。」(同)

――なお、EQブームのあと便乗した書籍や飛躍した理論が乱立した。しかし、人間関係の問題はすべてこのEQに帰結する。とくにセルフマネジメントに関連するものは、例外なくEQの影響を受ける。EQのケースや内面に関心のある方には参考になる書籍である。

参考書籍
EQ「感じる力」の磨き方』(東洋経済新報社)

尾藤克之
コラムニスト

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