長州の「革新派」が日本を滅ぼす:『明治維新という幻想』

池田 信夫
森田 健司
洋泉社
★★★☆☆

 

来年は明治150年で、政府は記念行事を予定している。これに対して左翼がまた「明治維新は不十分な『上からの革命』だった」と批判しているが、これは逆だ。明治維新は、日本の歴史上唯一の「革命」だった。その犠牲者はフランス革命よりはるかに少なかったが、必要のない暴力革命だった。

本書の題名はトンデモ本みたいだが、論旨は『明治維新という過ち』とほぼ同じで、内容も史実に即している。保守派は明治維新が「王政復古」だという建て前を信じているが、それも逆だ。日本には復古すべき王政の伝統なんかなかった。勤王の志士は今でいえば、中核とか革マルのような極左テロリストだったのだ。

幕藩体制は19世紀なかばには行き詰まっており、勝海舟も榎本武揚も平和的な政権移行を考えていたが、そこに長州の過激派が出てきて暴力革命を起こした。その教義となった尊王攘夷は水戸学の受け売りで、「日本は神代の昔から万世一系の天皇が統治してきた」という水戸学は徳川光圀の誇大妄想だった。

吉田松陰は会沢正志斎からその誇大妄想を教わり、松下村塾で教えた(革マル派の黒田寛一みたいなものだ)。薩長の下級武士がそのカルトに感化されてテロを起こしたが、「もう徳川幕府はだめだ」と理解していた勝海舟は、西郷隆盛に江戸城を明け渡した。このときの将軍は水戸家の慶喜で、彼は水戸学に従って政権を天皇に「奉還」した。

だから安倍首相が明治維新を「日本の伝統」として美化するのは錯覚で、それは徳川幕府の継承した日本古来の伝統を破壊する革新政権だった。その革命は昭和にも受け継がれ、岸信介などの「革新官僚」が日本を戦争に引きずり込んだ。長州は日本を2度滅ぼしたのだ。