相続税制は論理破綻している!

私は最近、体力づくりのためにウオーキングをしています。
自宅から道路ひとつ隔てた新宿区西落合は、故本田宗一郎氏の旧宅などがある高級住宅地です。中の建物が見えないような大きな敷地の大邸宅や、庭にプールのある豪邸を目にすることもあります。

ところが、大邸宅の隙間に小さなアパートがたくさん建っていたり、更地にして分割して分譲する予定らしい土地を頻繁に目にします。おそらく、相続税や固定資産税負担に耐えかねて、家土地を売却したり土地の一部にアパートを建てて賃料収入を得ているのでしょう。

アンバランスな町並みを歩いていてふと考えるのは、「相続税って果たして当然の税金なのだろうか?」「土地の値段が高いというだけで、親の死亡によって住み慣れた家を追い出されるのはおかしくないか?」ということです。

日本の民法では、相続は包括承継主義(相続原因の発生と同時に、被相続人と利害を有する者との間で何らの清算手続を経ずに、被相続人の財産が包括的に相続人に移転する)を採用しています。

英米のような精算主義(相続原因が発生した場合、相続財産は直ちに被相続人に承継されず、一旦死者の人格代表者に帰属させ管理させる。そして、この者が被相続人の利害関係人との間で財産関係の清算をし、その結果プラスの財産が残る場合はそれを相続人が承継する)は採用していません。

包括承継主義の下で、最高裁もかつては相続に関して「人格承継説」と言われる考え方を採用し、相続人が故人である被相続人の(権利義務は言うまでもなく)人格まで承継するという立場をとっていました。

このように、日本民法は原則として「被相続人=相続人」という主義を採用しています。故人である被相続人に多額の借金がるような場合は、「相続放棄」や「限定承認」の申立という例外的な手続をしないと借金をそのまま受け継いでしまいます。
このように、原則として被相続人と相続人は同一人格とみなすのが民法の立場です。

同一人格という原則からすると、同一人格間で財産が動いて課税するというのは論理破綻になります。
あなたが働いて所得税や住民税を収め、一生懸命残した金で買った財産について更に課税されるのは明らかな二重課税です。
ですから、不動産等に課される固定資産税は二重課税です。

固定資産税を徴収されつつ、被相続人の死亡という事実が発生すると(被相続人と同一とみなされるはずの)相続人がさらに税金を払わなければならないのは二重課税どころか三重課税になります。
これは、理論的には明らかにおかしいし、国家による不当な搾取と言っても過言ではないでしょう。

この不整合を修正するには、相続を精算主義にするという方法があります。この方法であれば、故人である被相続人と相続人は別人格なので、あたかも棚ぼたの贈与があった時と同じように相続税が正当化されるでしょう。もっとも、この方法は「死者の人格代表者」を置かなければならず、コストがかかります。

日本では、相続財産が基礎控除額(3000万円+法定相続人の数×600万円)に満たない場合は相続税を一銭も収める必要がないので、それより相続財産が大きくて相続税を収めなければならない場合にのみ、「人格代表者」を置くことにすればいいのかもしれません。

ついでに、この「人格代表者」に、複数の相続人間の相続分をきっちり分配する権限を与えれば、無用な相続争いも少なくなるでしょう。具体的には、家裁に専任された「人格代表者」たる管理人が、遺言の有無等をチェックし、遺言がなければ法定相続分に応じた分割案を作成して家裁が決定を下すという方法が考えられます。

そもそも、日本の相続税は日露戦争の戦費を賄うために1905年に導入されたもので、昔からあったものではありません(日露戦争でも十分昔ですが…)。世界には以下のように、相続税の存在しない国がたくさんあります。
https://vdata.nikkei.com/prj2/tax-Inheritance/

庶民である私としては、別にお金持ちを贔屓する必要もあるませんし、相続税が所得の再分配機能を有していることも間違いないでしょう。しかし、論理破綻している税制というのは職業柄大いに違和感を覚えます。

また、家土地だけしか残されなかった生活能力のない相続人が、納税のために家土地を追い出されるというのは、どう考えても異常だと思います。英国の元首相である、故マーガレット・サッチャー氏が次のような趣旨の発言したそうです。

“お金持ちを貧乏にしても、貧乏な人はお金持ちになりません。”

荘司 雅彦
講談社
2006-08-08
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編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年1月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。